マレーシアGPダイジェスト
セバスチャン・ベッテル。レッドブル/ルノー・RB6。ドイツ人。22歳。彼は心中複雑な思いでこのセパンに乗り込んだ。過去2戦、彼はいずれもポール・ポジションにつけている。マシンの戦闘力が非常に高いのは明らかだ。だがしかし2戦とも、不本意な結果を受け入れざるを得なかった。点火プラグ。ホイールナット。彼にはある意味、関係のない話ではある。シーズン初優勝への確たる執念を胸に、ドイツの若武者は灼熱のマレーシアに降り立つ。
ルイス・ハミルトン。マクラーレン/メルセデス・MP4-25。イギリス人。24歳。2008年度ワールドチャンピオンであり、マクラーレンの元総帥ロン・デニスの秘蔵っ子でもある。デビュー時から言動、ドライビングへの批判が絶えず、2009年からは大きな規定改正にチームが付いていけず、大きく失速。果ては先週豪GPでは公道上で暴走する事件を起こして地元警察に車を没収され、人間性を疑われる始末。こびりついた悪評を少しでも払拭するには、乱戦が予想されるここマレーシアで少しでもいい走りをするしかない。
フェリペ・マッサ。フェラーリF10。ブラジル人。28歳。2008年にわずか1点差でハミルトンに敗れ、翌年のリベンジを誓う。しかし真夏のハンガリーGP、前を行くバリチェロのクルマから脱落したスプリングがヘルメットを直撃。失神したマッサはタイヤバリアに刺さり、残りのシーズンを治療とリハビリに費やす羽目になった。今年、新たなマシンとチームメイトを得、4年目のフェラーリに活路を求める。
予選はスタート早々スコールに見舞われる大波乱。ここでフェラーリの2台は作戦ミスを犯す。アロンソ19番手、マッサ21番手。後ろにいるのはHRTやヴァージンといった弱小新チームの面々だ。マクラーレンも雨に苦しみ、ハミルトン20番手、バトンは辛くもQ2進出を果たすがその後グラベルにつかまり17番手。この時点ですでにスピン、コースアウトするドライバーが後を絶たない。
PPはレッドブルのベテランオーストラリア人、マーク・ウェバー。今年に入ってから存在感を見せ付けるようなレースをしていない。レッドブル健康飲料が大きなシェアを誇るここマレーシアで、いいところを見せたい。2番手は同じくマレーシア企業、ペトロナス(石油企業)がバックを支えるメルセデスGPのロスベルグ。以下ベッテル3番手、昨年からめきめき力をつけてきたスーティル4番手。ウィリアムズの新人ヒュルケンバーグが5番手、コスワースエンジン搭載車最高位だ。日本人の小林可夢偉はスコールの中、自己ベストの9番手グリッド。老兵Mシューマッハの後ろで静かに機をうかがう。
4月4日午後4時、スタート!23台がいっせいに地面を蹴立てる。残る1台はザウバーのP・デラロサ。トラブルからか、スターティンググリッドに並ぶことすら出来なかった。06年ハンガリーで2位に入ったこともある大ベテランは、しかしゼロ周でヘルメットを脱いだ。
9周目、混戦状態の11位に就いた小林クンが尾部から白煙を噴いてダウト。残念。この翌週、こんどはシューマッハがスローダウン、裏ストレートにマシンを止める。やはり酷暑のマレーシアはドライバー、マシンともに負担が強い。ドライバーはレース後に失神したり脱水で倒れたりもできようが、機械はそういう融通が利かない。
L12、フォースインディアの龍治がギアボックスか何かで失速。歩むような速度でメインストレートに姿を現すが、そこでマシンが力尽きた。
L20、アロンソのエンジンに異音。ギアを下げるごとにニュートラルに入ってしまう?シフトアップには問題が無いようだが、得点圏内まで猛烈な追い上げを2台そろって繰り広げていただけに不安がよぎる。L25、ウェバーがルーティンストップ、しかし右前輪のホイールナットがスタックしてしまい、復帰までに余分な2秒を費やしてしまう。これでベッテル、ハミルトンに交わされて3位転落。今日のハミルトンは思うところがあるのか、速い。信じられないペースでFLを連発しながら前走車を次々攻め落とす。
L30あたりから中段グループに火が点き出す。まずマッサが7位バトンに迫り始める。アロンソもL33にタイヤを換え、フレッシュラバーで攻めるもののギアにこれ以上負担がかけられない。マッサは快調だが、ストレートスピードに分があるマクラーレンにコーナーで追いついても、ストレートで離される展開が続く。
L34、鬼気迫る走りでアルグエルスアリらに一歩も引かぬ戦いを見せていたペトロフがリタイア。一方ピットインで順位を落としたハミルトンが5位スーティルの背後にぴたりと付ける。抜かれるのも時間の問題か。1コーナーの複合セクション、スーティルがインをふさぐ。次も、その次も、スーティルはプレッシャーをはねのけ、「ドア」を閉める。ストレートは向こうが明らかに勝っている。だが抜けない。今期最強の呼び声の高いメルセデス・ベンツFO108Xを積んだ両者は、果てしないバトルの海に漕ぎ出す。
L44、マッサがついにバトンをパス。ホームストレート、スリップに入って気力で食らいつき、その後の1コーナーでインをついたのだ。教科書どおりの完璧なオーバーテイクに、1コーナーの丘を埋める観衆が拍手で応える。
レースはその後もバトルと同時進行で滞りなく進み、L55。ギアをいたわりながらバトンを攻め立てるアロンソが、1コーナーでアウトに振る。並ぶ。だが無理なラインから進入した彼のマシンは、大きくアウト側へはらんだ。すかさず体勢を立て直して追撃するアロンソ。しかしアクセルを開けた瞬間、彼の背後でフェラーリエンジンが音を上げた。度重なるニュートラルギアと折からの猛暑に、エンジンが耐えられなかったのだ。大白煙を吹き上げ、3コーナー後の短いストレートでマシンを芝生に乗せるアロンソ。無念、ギアをいたわって攻め続けたスペイン人チャンピオンの努力と技術に、エンジンは応えてやることが出来なかった。これもまた、レース。
56週を1時間33分48秒412で回って、チェッカーフラッグが待ち受けるコントロールラインへ姿を現したのはベッテルだった。マシンを蛇行させ、無線でメカニックたちに感謝の言葉を述べる。その瞬間の彼は、さわやかな好青年そのもののイメージだった。2位の僚友・ウェバー、3位に入ったロスベルグとともに表彰台に立つ。大健闘のクビサ/ルノーが4位、スーティルも気力でハミルトンを押さえ込み、殊勲の5位。5位というポジション以上に、彼の精神力と闘魂をたたえたい。
いいレースだった。みんなみんな、いいレースをした。次のグラン・プリは4月18日、上海で開かれる。
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