カテゴリー「F1-2011」の記事

2011年12月28日 (水)

2011年F1選手権・SimacherP流総括

*当方PCトラブルにより10月半ばよりブログ執筆ができずにおり、この記事は選手権終了直後の11月下旬に筆記の形で執筆したものに、主にストーブリーグ関連のネタを少々書き加えたものです。

-----------------------------------------------------------------------------------------

さる11月27日、2011年度F1世界選手権はブラジルグランプリの終了をもって全19レース(実際は18レース)を消化、一年を終えた。今年度はドライバーズタイトル、コンストラクターズタイトルともにレッドブル・レーシングおよび同チームのセバスチャン・ベッテルが圧倒的とも言える強さで席捲。ほとんど「蹂躙」といっていい形で2011年の覇者となったのはご存知のとおり。しかしレースは勝者のみの世界にあらず。というわけで2011年のF1シーズンを、チームごとに振り返ってみるとしよう。各チームの並びは2011年度コンストラクターズ選手権に準拠(=来季のゼッケンの並び順)している。

レッドブル・レーシング・ルノー/RB7/#1 Sベッテル、#2 Mウェバー
まず間違いなく今季最強チーム。昨年後半からの連勝の「波」を今年一年、維持できたのはすばらしい。しかし一方で、昨年トルコGPの「相討ち」事件で顕在化したチームメイト間の微妙な確執が、イギリスGPでぶり返してしまっている。勝ち続けるベッテルの影で、ウェバーは今季、ブラジルGPで僥倖に助けられた一勝を挙げるにとどまった。ピレリタイヤへの適応でベッテルは勝っていた、とは同チームのデザイナー、アドリアン・ニューエイの弁。来季もこのドライバーで行くことはほぼ確実であろう。マシンに問題が見当たらず、連続ダブルタイトルでチームの士気も高い今、最大のキーファクターはやはりドライバーふたりで息を合わせられるか、であろう。パトレーゼのような役柄がウェバーには求められるわけだが、芯の強い彼がそれを甘受するだろうか。目が離せない最強チームだ。

マクラーレン・メルセデス/MP4-26/#3 Lハミルトン、#4 Jバトン
レッドブルが絶対的な主役ならば、このチームは間違いなく2011年の名脇役、あるいは準主役に匹敵する活躍を見せてくれた。レッドブルが取り落とした7つの勝利のうち6つを、このチームが拾っている。シーズン前テストの段階では最遅チームであったことを考えると上出来だろう。星の数は3つずつでイーブンだが、両ドライバーの走りはかなり違っている。バトンは典型的なクレバー・ドライバーで、常に後方でじっと機をうかがい、派手な真似はほとんどしない。雨にぬれたカナダグランプリ、ベッテルの背後に付き続け、最終ラップで自滅スピンを誘発して勝ったシーンがとても印象的であった。ハミルトンは今季、特にフェラーリのマッサと接触を起こすことが多く、しばしば物議をかもした。彼ももう「若造」ではない。来年でデビューから6シーズン目を迎えるハミルトンだが、もっと慎重さを身に着けねば。

フェラーリ/F150イタリア/#5 Fアロンソ、#6 Fマッサ
PPなし、勝利数わずかに1、しかし表彰台の数は数知れず。すべてアロンソの功績。2011年は、フェラーリにとってなんとも歯切れの悪いシーズンとなった。底辺をさまようほどの遅さではなく、だがトップ集団に加わるには絶対的な速さが全く足りない。イギリスで挙げたシンボリックな1勝も、ベッテルのピットミスという運があってのことだった。でなければ2位で終わっていただろう。あのマシンで表彰台を確保できたのも、アロンソのテクニックによる補正が大きい。10年度、ギリギリまでチャンピオンを争ったアロンソが、今季は若いナンバーをつけている(昨年は逆だった)。これで説明はもういらないだろう。ロリー・バーンやロス・ブラウンといった最強時代の重鎮たちが相次いで離脱してから、チームはマシンにも戦略面にも苦戦を強いられている。今季途中でTDを解雇するなどドラスティックな方策も、功を奏したとは言いがたい状況だ。フェラーリの低迷期は一旦陥ると長引く傾向がある。来季のフェラーリは、今季の泥沼からどこまで這い上がれるかが注目点となるだろう。

メルセデスGP/W02/#7 Mシューマッハ、#8 Nロスベルグ
昨年と全く同じラインアップで臨んだ今シーズン。ランキングこそ3強の真下を堅持しているが、パフォーマンスにはまだかなり隔たりがあるのも事実。シューマッハは、今季たびたび印象に残るドライビングを見せたが、まだ復帰当初の非難を完全にかわすには足りないようだ。ロスベルグもコンスタントに得点を入れてはいるが、チーム全体がなんとなく存在感の薄い組織になりつつあるのがきがかり。「中段の上」と「上段の下」では大きな差があるものなのだ。2012年、メルセデスGPにやるべき仕事があるというならば、このギャップを何とかして埋めることであろう。そのためには今季のマシン開発の弱点だったペースの不安定さを改善することが急務だろうか。注目すべきはこのチームのKERSシステム。大きな容量を持ち、F1最強といわれるメルセデスV8エンジンとあいまって、直線スピードではマクラーレンをも凌いで見せた。原石としての輝きは十分、持っていると言えそうだ。

ロータス・ルノーGP/R31/#9 Nハイドフェルド・Bセナ、#10 Vペトロフ
黒地に金という、旧チームロータス絶頂期のカラーで登場したルノー(本稿ではこのチームはルノーと呼称)。グループ・ロータスの支援を受けロータス・ルノーGPとしてプライベート化されたが、マネージメント体制はまずまずのよう。開幕戦でペトロフが幸先のよい3位表彰台を獲得したが、それ以降は得点圏内外をうろうろするレースが多くなる。第12戦ベルギーにて、ハイドフェルドに替えてブルーノ・セナを起用。セナもポイント獲得など、最低限の目標はクリアしているが、実力ではまだベテランのハイドフェルドに及ばないのは明白だろう。ペトロフは昨年、印象的なデビューを果たした勢いをやや失っているように見える。来季のドライバーラインアップがまだ不透明だが、もしセナとペトロフのどちらかを残留させるとしたら、チームはペトロフを選ぶのではないか。今季用マシンに投入された画期的なサイドエキゾーストは、その後ブロウンディフューザーという形で多くのチームに模倣された。決して低迷してはいないのだろうが、もう少し終盤にかけての「決定打」が足りていない印象だ。来季の活躍はドライバー次第、といったところだろう。
追記: その後、キミ・ライコネンがこのチームでF1に復帰し、さらに(おそらくスポンサーがらみで)09年に一瞬だけ走ったロマン・グロージャンがドライブすることが発表された。ライコネンは曲がりなりにも元チャンピオンだからいいとしても、グロージャンは実力的にいかがなものかと思う。2009年の終盤戦に出ていたが、あのバドエルと最下位争いをしていた印象しかない。グロージャン起用がチームにとってどう転ぶのか。

フォースインディア・メルセデス/VJM04/#14 Aスーティル、#15 Pレスタ
欧州F3を(あのベッテルを向こうに回して)制覇しながら、機会に恵まれずツーリングカーレースで戦っていたメルセデスの育成ドライバー、ポール・ディ・レスタを起用。ベテランの域に足を踏み入れたスーティルとのコンビネーションは、派手な速さとは無縁ながら安定感のある走りで着実にポイントを重ね、終盤失速したザウバーを捉えてコンストラクターズ6位の戦績を勝ち取った。2009年にメルセデスエンジンを獲得して以来、このチームはずっとこんな感じだ。悪いことではないが、もうすこしパンチが欲しい、とつい思ってしまう。こちらも来季ラインアップが不透明なのだが、まあ順当に行けば両ドライバーとも残留、或いは昨年ウィリアムズにいたニコ・ヒュルケンベルグを起用するかもしれないという噂がある。若手一人とベテラン一人、の組み合わせでバランスがいいのはスーティル-ヒュルケンベルグのコンビだと思うが、どうなるだろうか。
追記: どうやらレスタ-ヒュルケンベルグでほぼ決まりの模様。いくら経験・実力があっても、地味なドライバーは優先的に切り捨てられてしまうのか。それはそれで面白くないと思うのだが・・・。

ザウバー・フェラーリ/C30/#16 小林、#17 Sペレス
日本人F1ドライバーの小林可夢偉が所属するということで、日本での注目度はレッドブルの次くらいに高そうなチーム。ペレスがかなり大健闘したのが少々、意外だった。終盤はたびたび小林を上回ってみせ、初年度とは思えないパフォーマンスを披露。しかしドライバー以前に、資金難の影響からか車輌の開発が思うに任せず、中盤~終盤にかけてライバルが力をつけてくると、コンスタントなポイント獲得も難しくなっていった。この辺りがフォースインディアに対する敗因なのだろうか。それでも最終戦で小林が9位入賞し、なんとかトロロッソからの追い上げを交わすことはできた。終盤にかけて信頼性が下がっていくのはある意味、このチームの伝統ともいえるが、それ以外にも今季は作戦の拙さがところどころ目だった(特に終盤)。来季に向けてもう少し、努力が必要になるだろう。

STR・フェラーリ/STR6/#18 Sブエミ、#19 Jアルグエルスアリ
こちらはザウバーとは真逆に、終盤にかけてペースを上げていった感のあるチーム。設計面ではレッドブル製マシンから徐々に脱却していっており、こちらも特段、問題は見えない。序盤にやや出遅れたことで、その後のポイント争いにおいて足を引きずられる形になってしまったのが今季の反省点だろう。それがなければもっと上も狙えたはずで、ザウバーは苦しいことになっていたかもしれない。ドライバーにも問題点が見つからないが、来季に向けてどちらか一人を放出するかもしれない、というが、筆者的にはこの二人では正直、甲乙付けがたく感じる。二人とも、与えられた環境下で最大限の仕事を行っているではないか。
追記: なんとトロロッソは、来季ダニエル・リチャルド(HRTより)とジャン・エリック・ヴェルニュ(新人)の組み合わせで行くことを発表。これははっきりいって悪手であろう。もともといい仕事をしていたのを無理やり解雇してまで登用する価値のあるドライバーならいいが、この2人では、ヘタクソとまでは言わないもののまだ未知数だ。STRはレッドブルからすれば、単なる「ドライバーの牧場」か何かでしかないのだろう。ドライバーはたまったものではない。

ウィリアムズ・コスワース/FW33/#11 Rバリチェロ、#12 Pマルドナド
昨年、健闘を続けたヒュルケンベルグを解雇してまでマルドナドを起用、目的は彼の母国ベネズエラからの金銭援助に他ならない。現在のF1において、自動車会社とのコネクションを持たないプライベーターが生き残る苦労を考えると、仕方の無い措置ではあったろう。しかしそれにしても、今季は獲得ポイントわずか5という惨状。下にいるのはすべて実力・資金ともに不足している、2010年加入組の3チームだけだ。コスワースエンジンのパフォーマンスに不満を抱き、来季からのルノーエンジン獲得を選択。F1最多出走記録を持つバリチェロだが、彼もシート喪失の危機からは逃れられていない。マルドナドも実力がマシンの陰で見づらくなってしまっている。エンジンが変わるとはいえ、チーム自体かなり深刻な状態であることは間違いない。来季、ドライバーラインアップがどうなっているのか興味深いチームでもある。マシン設計はかなり保守的。今年のカラーリングは、旧ロスマンズカラーをイメージした紺・白に、赤・銀のストライプ(本物のロスマンズはストライプが赤・金)で、こればかりは印象的だった。

チームロータス・ルノー/T128/#20 Hコバライネン、#21 Jトゥルーリ
昨年同様ノーポイントに終わった、伝統の緑・黄カラーに身を包むマレーシア資本の「ロータス」。ロータス・ルノーGPとの長期にわたる名称権の係争で、視聴者を大いに混乱させた。結局、来季から傘下の自動車メーカーの名前「ケーターハム」として参戦する。成績上はノーポイントながら、ウィリアムズに迫るシーンは多く見られ、来季への期待をあおる。2012年にはKERSを搭載することが予定されており、ポイント争いにより近い存在となるだろう。コバライネン・トゥルーリ両名とも、まずまず満足できる戦果を挙げており、またマイク・ガスコイン主導のテクニカルチームもよく機能している。来季一気に「化け」てくる可能性が楽しみなチームだ。

マルッシャ・ヴァージン・レーシング・コスワース/MVR-02/#24 Tグロック、#25 Jアンブロジオ
一転、こちらはあまり期待が持てないほうのチーム。ロシアの自動車メーカーと提携し、資金面の強化を図ったはいいものの、マシンの出来はまだまだ要求レベルに達していない。グロックは実力的に充分なはずなのだが、それでも苦戦しているところを見ると、他の要素の全てがとても悪い状態なのだろう。とりあえず、なんとか2周遅れ以内でレースを完走できるようにするのが当面の目標ではなかろうか。しかしこのチームとあっては、それでさえかなり高いハードルに見えるが。

HRT・コスワース/F111/#22 Nカーティケヤン・Dリチャルド、#23 Vリウッツィ
どうあがいても、最底辺から抜け出せそうに無いのがHRT。マシン・チーム全てがグダグダ状態で、最早どこをどうするべきかのアドバイスさえ見当がつかないくらいだ。リチャルドはレッドブルの若手育成プログラム出身の新人ドライバーだが、はっきり言ってこのチームでは新人の才能を見極めるなどどだい無理だ。辛うじて、僚友リウッツィを数度、予選で上回っていることから「ある程度の実力はあるだろう」と類推するしかない。何か抜本的な対策が(たくさん)必要だが、その前にとにかく経験をつむことが肝要だろう。来季で3シーズン目、そろそろ何らかの進歩を見せるべき時に来ている。2012年はこのチームにとって正念場だ。
追記: ドライバーではないが、過日チーム代表のコリン・コレスが職を離れ、スペインの元F1ドライバー、ルイス・ペレス・サラが代表職に着いた。またリチャルドは来季STRで走るため、ドライバーは復帰予定のデラロサ・続投のリウッツィに戻るかと思われる。

以上、全12チームのシーズン総括を書いてみた。もちろん私見であり、これと意見を異にする諸兄も多いであろう。何か感じたこと、意見の相違に気づいたりしたら、遠慮なくコメントしていって構わない。むしろ喜ぶので、コメントはぜひ残していってもらいたいところだ。

2011年10月14日 (金)

日本GP レビュー

日本においてF1グランプリが一般に認知され始めたのは、1987年からであるといわれている。それまでにホンダがF1でそれなりの戦績を挙げており、民衆の関心が高まっていたところへ、この年から中嶋悟が日本人初のフルタイム・ドライバーとしてロータス・ホンダから参戦し、フジテレビが全16戦のテレビ中継を開始し、鈴鹿サーキットが10年ぶりの日本グランプリ開催の5年契約をFISAと結び、ホンダエンジンを搭載したウィリアムズ・チームがドライバー、コンストラクター両部門のチャンピオンに輝いた。どれも、お祭り好き、新しい物好きな日本人の興味をF1へ向ける方向に働いた。あれから24年、富士スピードウェイでの2度の代替開催が行われ、ホンダが撤退し、次いでトヨタがF1から手を引いても、鈴鹿は変わらずF1グランプリを開催し続けてきた。近年カレンダーに追加された新興国でのグランプリが、立地、文化、金銭などのファクターによって軒並み集客に苦戦するなか、鈴鹿は毎年20万近い観客動員数を安定して記録している。

鈴鹿はもともとホンダが自社のモーターサイクルをテストするために組立工場の近くに作ったコースで、設計に当たってはドイツから優秀な人材が招かれた。世界でも唯一の立体交差を持つ本格サーキットだが、「ホイールの左右両側に均等な負荷がかかるように」という、テストコースらしい気配りがその理由だった。1コーナー、S字、逆バンク、デグナー、ヘアピン、200R、スプーン、130R、カシオシケインと、ほぼ全てのコーナーが「名物コーナー」であり、攻略の難易度は非常に高かったが、ゆえにドライバーの自尊心をくすぐるサーキットでもあった。

過去いくつもの日本GPと同じく、今年の鈴鹿もチャンピオン決定の舞台となる公算が高かった。セバスチャン・ベッテルはこれまでのレースで309ポイントを獲得しており、あと1点でも取ればライバルの戦績如何に関わらず自動的にチャンピオンが決定するのだった。ベッテルは今季最強の呼び声高いレッドブルのマシンに乗っていたが、この組み合わせは普通に走っているだけで九割九分、表彰台は安泰という怪物マシンだったし、マシンは去年のように後半になってマシントラブルを続発させたりしなかったので、ベッテルは事実上、決勝に出場するだけでチャンピオンが決まるようなものだった。

それを阻まんとするかのように、フリー走行を席捲したのは「日本は第二の故郷」と公言するジェンソン・バトンだった。メルセデスエンジンというF1界最強のエンジンに、マクラーレンという名門チームで走るバトンに期待がかかったが、しかし予選になると観衆はこれまで14回くりかえされてきたワンサイドゲームをもう一回見ることになった。ベッテルが今季12回目のポールポジションを獲得し、1コーナーのインサイドへ真っ先に飛び込む権利を得たのである。連覇に向けて視界は良好だった。しかし2番手のバトンとベッテルの差は千分の9秒でしかなく、バトンの勝機は十分にあった。以下3番手にハミルトン、4番手にマッサ、5番手にアロンソ。日本人の期待を背負って立つ唯一の日本人ドライバー、小林可夢偉は自己ベストの7番手グリッドからスタートする。彼がいるザウバー・チームは、後半になって資金不足の影響がじわじわ出始め、選手権ポイントでライバルのフォースインディアに逆転を許したばかりか、後続のスクーデリア・トロロッソにも追い立てられている有様だった。ここでなんとしてでもポイントフィニッシュを果たし、故郷に錦を飾りたいところだ。

スタートがよかったのはバトン。彼は「第二の故郷」で何とかベッテルに一点返さんとダッシュするが、1コーナー直前でベッテルが大きくマシンをインサイドへ寄せた。接触!バトンは危ないところでグリーン上へ避退し難を逃れたが、大きく遅れを取り、ハミルトンの先行を許してしまう。コーナー先での順位はベッテル・ハミルトン・バトン・マッサ・アロンソでほぼ固まる。小林はホームのプレッシャーに負けてしまったのかクラッチをつなぎ損ね、一歩遅れた。マシンが動き出したときには、彼のうしろからライバルチームのフォースインディアやルノーのマシンが突進してきて、左から右から彼を越えて行ってしまった。小林はあっという間に13番手に転落してしまったが、それでもめげずに後方からチャンスをうかがう。この鈴鹿は、去年彼が何度も果敢な追い抜きを試みて成功し、観衆の度肝を抜いた縁起のいい場所だった。

彼は1回目のピットインを終えた16周目、ヘアピンでトロロッソのハイメ・アルグエルスアリにアウトから並びかけ、アルグエルスアリがブロックにかかるとすかさずインサイドへラインを変え、抜き去った。これで12番手になった。その後前を行くウィリアムズのパストール・マルドナドがピットインしたので11番手に上がった。後もう1台抜けばポイント圏内であり、レース距離はまだたっぷり残っていた。

18周目、5番手マッサが4番手ハミルトンに接近し始める。その場にいる人々になんともいえぬ不安が広がった。ハミルトンは間違いなく一流のスピードで走れるドライバーだったが、運転がいささか乱暴に過ぎた。この2人は今季たびたび絡んで接触する事故を起こしていて、だからマッサとハミルトンが逃げる追うの展開になると、サーキットに緊張が走るのだった。22周目まで、2台のマシンは接近しながらも何とか何事も無く周回を重ねていた。その周の終わり、カシオシケインでマッサがアウトへ並ぶ。あっ、と思った瞬間ハミルトンは大きくアウトへラインを寄せた。マッサは必死で回避したが、右のフロントウィング翼端板にダメージを負った。以後マッサはスピードが上げられず、ずるずると後退していってしまう。ハミルトンはレース後、つぎのように弁解した。「高速でマシンのミラーが揺れて、マッサが見えなかったんだ」 彼の言い分を信用するものもいたが、信用しない者のほうがはるかに多かった。

20周目にウェバーがピットイン、続いてベッテルもピットへ入ってくる。その次の周、バトンもピットへ入ってきたが、重要なことに彼はベッテルの前でコースに復帰した。圧倒的な強さで勝ち続けてきたベッテルは、無論鈴鹿でも勝ってチャンピオンを決めるつもりだった。そしてそれに対するせめてもの抵抗とばかりに、バトンはペースを上げて逃げにかかった。調子がいいときのバトンなら、ベッテル(というよりレッドブル)と互角のタイムは十分出せる。バトンには追い上げてきた者の勢いがあり、ベッテルにはそれが無かった。

しかしここで波乱が起きる。マッサとハミルトンのシケインでの接触、そしてシューマッハとウェバーの逆バンクでの接触で、コース上の2箇所に破片が散らばっていた。それを片付けるためにセーフティーカーが投入されたのだ。各車は整列し、スロー走行を行わなければならなかった。各車いっせいに好機とばかりピットへ走る。3周してセーフティーカーは退場したが、バトンとベッテルの距離は1秒も無かった。マシンバランスがいいベッテルは、シケイン付近で必死に差を詰め、DRSとKERSを両方使って何とか形勢逆転を試みたが、メルセデスエンジンの強大なパワーと大容量KERSの前に、逆にじりじり離されていく始末だった。そのやや後方で機会をうかがうのは、チームメイトを交わして浮上してきたフェラーリのフェルナンド・アロンソ。以下、僅差でウェバー、マッサ、ハミルトン、シューマッハ、ペトロフ、ペレス、レスタと続く。8番手以下は順位が目まぐるしく入れ替わる大乱戦だ。小林可夢偉はいったんはポイント圏内まで競りあがったが、タイヤ交換をしてからグリップ不足に悩み、つぎつぎにポジションを落としていってしまった。

34周目、ベッテルが2番手からピットへ飛び込みタイヤを交換する。このピットでアロンソがベッテルを逆転。しかしベッテルにしてみれば、バトンはともかくアロンソは、元チャンピオンではあったがマシン性能が二段も三段も劣る相手であり、簡単に置き去りにできるはずだった。事実イタリアグランプリでベッテルは、一旦リードを奪ったアロンソを再スタート直後のシケインで一撃で葬り去ってトップに返り咲く芸当を見せていた。しかし今回は様子が違った。バトン同様、淡々と勝ち続けるベッテルに飽き飽きしていたアロンソは、彼が背後に回ったと見るや猛烈なチャージを開始。予選アタックに匹敵するタイムを連発し、パワーを利してあっという間にベッテルをDRS圏外へ追いやると、そのままのペースで2番手を堅持。ベッテルも追い上げにかかろうとしたが、「チャンピオンタイトルがほぼ手中にある以上、無理をする必要はない」というチームの安全策に従い追撃をあきらめた。逃げている相手を無理に深追いするのは絶対に危険で、しかも彼の背後にはチームメイトのマーク・ウェバーが控えていて、いざとなったら後続をブロックしておいてくれる手はずになっていたので、あえてペースを上げる必要もなかったのである。

その後は何も起こらなかった。53ラップをクリアした時点でトップにいたのはジェンソン・バトンのマクラーレンであり、彼は2011年F1日本グランプリの優勝者、また今季ベッテルが落とした五つのレースのうち三つで勝利を挙げたドライバーとなった。アロンソは最後まで2番手を死守し、そのまま今季2回目の2位でフィニッシュし、ベッテルを3位に押しとどめた。しかしベッテルには3位でも4位でも10位でも大して変わらなかった。セバスチャン・ベッテルは24歳ながら、2011年のF1世界選手権において334ポイントを獲得し、史上9人目の連続チャンピオンとなったのである。他の8人はそれぞれアルベルト・アスカーリ、フアン・マニュエル・ファンジオ、ジャック・ブラバム、アラン・プロスト、アイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハ、ミカ・ハッキネン、フェルナンド・アロンソで、彼はこのそうそうたる顔ぶれの一員に名を連ねる栄誉に浴した。西日が傾き始めた鈴鹿のスタンドを埋めた十一万観衆が、若きチャンピオンに拍手を送った。

稀有な才能を持つ若いエースドライバー、それをよく補佐するセカンドドライバー。優秀なデザイナー。バランスの取れた速いマシン。磐石のチーム体制。潤沢な資金力・・・ 思えば、今季のレッドブル・レーシングは、「勝つための条件」をほとんど全て満たしていた。彼らは、成功するべくして成功し、勝つべくして勝ったのだ。セバスチャン・ベッテルは、残りのレースも全力で当たり、勝ちを取りに行くに違いないだろう。

2011年10月 8日 (土)

写真で見る2011年シンガポールGP ~ミクといっしょ~

さて、原稿用紙23枚分の観戦記を書き終えたはいいのですが、さて困ったことに写真が一枚も載っていない。さいわいなことに、文章のみでも「じゅうぶん興奮は伝わった」と言ってくれるコメントが多いのも事実・・・なのですが、やはり写真があるとないとではいろいろ、違ってくると思うので、ここで一挙公開。初音ミクと行く2011年シンガポールグランプリ@マリーナベイサーキット、です。    
   
「どうも、今回の主犯SimacherPです。例によってなげえので格納です」    
「どうも、ミクです。うちのマスターは要約が苦手なようで、いっつも誰も読まないような長文ばかりブログにあげては一人で読んでニヨニヨしています。ダメ人間ですね。最後まで付き合っていただければ幸いです」    
   

続きを読む "写真で見る2011年シンガポールGP ~ミクといっしょ~" »

2011年10月 1日 (土)

シンガポールグランプリ観戦記

すごく長い(原稿用紙23枚分!)ので格納しました。現実と非現実をあわせた、私小説みたいなものになってます。でも大体現実です。ミクちゃんの設定はあくまでここだけのものですのでご注意を。文中の「ドル」はS$のことですが、1S$(シンガポールドル)が約2.5リンギット、日本円で70円弱くらいです。ほしいという奇特な方がいらっしゃれば、原稿にサインして抽選で1名様にお渡ししますがどうでしょうか・・・笑

続きを読む "シンガポールグランプリ観戦記" »

フォト
無料ブログはココログ

リンクリスト

  • Kumaryoong's Paddock
    ソビエト時代の東側諸国におけるモータースポーツ活動について書かれているたいへん誰得なブログ (褒め言葉)。この辺の史料を日本語でまとめたサイトって史上初かもしれません。
  • 作った静止画一覧
    主にMMDで作った静止画を上げています。最近はこっちの頻度のほうが高いですね。
  • Racing Sports Cars
    ル・マンや旧WEC/WSPC/SWC、さらには旧WCMなど、スポーツカー・レースの参戦車両の膨大な資料写真を有するサイト。ドライバー別・車種別検索機能完備。F1もちょびっとだけあります(70年~82年)。
  • F1-Facts
    1950年イギリスGPより、F1に関する全記録を蒐集・公開しているサイト。各年度リザルトページからマシン一覧・写真ページに飛ぶことができます。あなたの知らない名車に出会えるかも。IEは右クリックでの画像保存が出来ないので、PCに保存する際はFireFoxなどを使用してください。
  • 誰得 (boulog)
    謎多きF1マニア(?)、bou_ckさんのブログ。「Wikipediaに載ってないような脳内資料置き場」を標榜するだけあって、その名に恥じぬディープ過ぎるF1マシン解説!Wikiどころか、ネット上にもそうそう無いようなマシンが目白押し。ちなみに「誰得」とは「誰が得するんだこんなもん」的意味合いのフレーズ。 2015.12.13追記: このほどYahooブログからfc2ブログに移転されました。
  • 作ったもの一覧。
    私の動画作品一覧です。気力の低下と更新頻度の低下はすべからく連動しています。
  • アカクテハヤイ フェラーリエフワン
    沖縄在住のフェラリスタ、Shigeoさんのブログ。1日1更新(原則)でフェラーリのさまざまな話題を取り扱います。レア物のフェラーリミニカー募集中だそうな。
  • METMANIA
    私の作るペーパークラフトの大半はここからきています。ヘルメットのぺパクラって多分ここにしかありません。