カテゴリー「F1-2012」の記事

2012年12月30日 (日)

2012年F1グランプリ・シーズン総括

今年のF1は、ひさびさに「面白い」といえるシーズンだったのではないかとぼくは思う。たしかに後半になるにつれて、序盤のワクワクした感じというのは無くなっていってしまったが、性能的に劣るはずのフェラーリに乗るフェルナンド・アロンソが最終戦までレッドブルのセバスチャン・ベッテルを追い回し、じつにわずか2点の差でベッテルの前にやぶれたのである。すくなくとも去年のように、誰か一人の独走劇ではやばやとタイトルが決まるところを見せられて、観客が飽き飽きしてしまうような展開にはならずに済んだだけ、今シーズンは決して退屈ではなかっただろう。最終的に異なる六つのチームから八人ものウィナーが誕生した今シーズンは、あらゆる意味で歴史に残る一年となるに違いない。以下、今シーズンの全チーム・ドライバーを10点満点で採点した結果を記す。シーズン全体の成績や走りっぷりなどを評価に入れての判断だが、もし多少の独断や偏見、個人的推論に基づいた採点とおもわれるところがあれば、それはぼくの責任である。 (31/12 一部改稿)

レッドブル・ルノー 8/10 (Sベッテル9/10、Mウェバー6/10)
今年も前年に引き続きダブルタイトルを獲得したレッドブル。若く速いドライバー、有能なデザイナー、それをバックアップできる潤沢な資金と、必要な物が全て揃っているのだから当然の帰結だろう。個人的にはあまりおもしろい結果ではないのだが、事実は事実であるし、彼らがすばらしい働きで序盤戦の遅れを帳消しにしてしまったことも確かだからだ。ベッテルはまだまだ若いが、最年少でトリプルクラウンを手の内にし、順風満帆といった感じである。まあ車が車なだけに、どこまで彼の実力なのかというのが測りにくいのはあるかもしれない。ウェバーは中盤辺りまでは上手く行っているように見えたのだが、その後選手権の趨勢が固まるにつれて生気が無くなっていったのが気になった。昔の彼らしい、闘志あふれるファイターぶりをもう一度見せてほしい。

マクラーレン・メルセデス7/10 (Jバトン6/10、Lハミルトン8/10)
レッドブル、フェラーリとならんで今季トップ3の座にすんなり収まった名門チーム。開発方向の失敗で序盤低迷を続ける中でも、エースのバトンをさしおいてハミルトンが力走を重ね、ひとびとに深い印象を与えた。全体的にピットミスやメカニカルトラブルなど、名門らしからぬつまづきがあちこちで目についたため点数は低めだ。相次ぐギヤボックストラブルやエンジントラブルがなければ、特に終盤戦においてコンストラクターズ選手権での対フェラーリ戦がより楽になったかもしれないのだ。バトンは全体的に不発の年だったと言わざるをえない。来年は若きチームメイトのセルジオ・ペレスがやってくるが、この二人の戦いも楽しみである。

フェラーリ 5/10 (Fアロンソ10/10、Fマッサ8/10)
レッドブルが「チーム力」でタイトルを取りに来たとすれば、こちらは完全に「ドライバーの力」でタイトル争いに踏みとどまっていた。どんなに素性のいい車でも、そこから熟成できなければ意味が無い。アロンソによると、F2012は5月の時点で完全に開発はストップしていたのだという。いちおう終盤戦に向けて排気系等がアップデートされてはいたようだが、マッサの調子が良くなるばかりでアロンソにはなんの助けにもなっていないように見えた。そんな車で彼は最終戦までチャンピオン争いに望みをつなぎ、頭上にチェッカーフラッグが舞う瞬間までアクセルをゆるめることをまったくしなかったのである。ベッテルを若い速さとすれば、彼の走り方はベテランの走り方である。ペースを上手く出し入れしてタイヤを使い切る、頭脳派な戦い方だ。二ポイント差で涙をのんだ責任はおそらくチームにこそあるだろう。マッサも序盤こそ「どこを走っているのかわからない」状態だったが、終盤になるにつれて復調。アメリカグランプリでは戦略的なグリッドダウンを受け入れながら (賛否両論あるが、個人的には英断だったと思う)、アロンソのエスコーターを最後までつとめきった。それだけに、アロンソのベルギーと鈴鹿での取りこぼしが悔やまれるのである (いずれも不可避のアクシデントといえばそれまでだが…)。

メルセデス 4/10 (Mシューマッハ6/10、Nロスベルグ5/10)
今年の初め頃にロス・ブラウンが車の設計上の問題を挙げていたが、けっきょくリザルトを見ると最後まで改善されなかったようである。ロスベルグがいちおう中国GPで勝ってはいるが、その後の走りっぷりを見るとあれは棚ボタ以外の何でもないような気がしてくるから悲しいものだ。シューマッハも凡ミスというか、「らしくない」シーンが多々あったものの、モナコGPでのポールを評価しての採点。引退間際のいい土産になったことだろう。特に後半戦において、まったく活躍らしい活躍はしてくれなかったといっていい。来年はシューマッハにかえてハミルトンが移籍してくるが、開発ミスでまたしてもシーズンを棒に振るような展開にならぬよう祈るばかりである。

ロータス・ルノー 8/10 (Kライコネン8/10、Rグロージャン4/10)
こちらも善戦敢闘、比較的ちいさな世帯のチームながら、開幕前の予想通りトップチームによく食らいつく戦いぶりを見せてくれた。ライコネンの復帰後初優勝はすこし遅かったような気もするが。チームそのものにとっても今季の好戦績は予想外だったらしく、ポイントを取りすぎてスタッフへのボーナスが滞るというウソみたいな本当の話まであった。グロージャンは特にベルギーや鈴鹿での大クラッシュでほうぼうの悪評を集めたが、速さで言えばそこそこ速い部類に入るとは思うので、来年こそが正念場、といったところか。本人曰く「今年は気合が空回り気味で、ルーキーミスを犯してしまった」とのことなので、来年はもうすこし落ち着いて走ってもらいたいものである。

フォース・インディア・メルセデス 7/10 (Pレスタ7/10、Nヒュルケンバーグ8/10)
開幕当初から「あまり目立たない存在」だったが、レスタ、ヒュルケンバーグ両ドライバーとも随所で光る走りを見せてくれた。特にヒュルケンバーグがブラジルで見せたリードラップは、2010年のポールポジションに続く彼のキャリア・ハイライトたりえるだろう。最終的に五位で終ってしまったが、若い速さという意味ではこの男もマークしておいて損はないはずだ。シーズン中、オーナーのV.マルヤが自身の航空会社関連の事件であやうく逮捕されそうになる一幕もあったが、チーム事情はまだ当分安泰のようだし、将来性はあるチームだろう。


サウバー・フェラーリ 5/10 (小林可夢偉6/10、Sペレス8/10)
チーム的には序盤戦での作戦ミスやらピットミスの嵐でずいぶん印象がわるくなったが、後半戦になるとさすがにその辺は鳴りを潜めてきた。ペレスがマレーシア二位、カナダ三位、イタリア二位と三度の表彰台を獲得し速さをアピールした一方で、小林はホームグラウンドの鈴鹿で三位を得ながらシートを失った (このへんは彼のマネージメントのまずさとか、認識の甘さといったものが影響していると思うのだが、今回はひとまずその辺は採点に加味していない。彼の顛末記だけで記事一本書けそうな勢いである)。小林/ペレスのコンビは「攻めのペレス、守りの小林」といった趣でじつにバランスがとれていたと思うのだが。ペレスの速さはやはり本物というか、さすがと言うべきだが、後半戦でポカが多発しているのが気にかかる。つくづく、両極端な走り方をするドライバーである。ペレスは派手な速さ、小林はどちらかというと地味臭い速さで、そのうえ小林もどうもツメが甘いというか、ケアレスミスのようにしか思えないような大ポカ (イギリスGP、ヨーロッパGP、韓国GP) をやらかしている辺り、サウバーの査定に影響したのかもしれない。

STR・フェラーリ 6/10 (Dリカルド6/10、Jベルニュ5/10)
まあ可もなく不可もなくというか、じつに淡々としたシーズンであった。ふたりのルーキードライバーは開幕戦で入賞こそしてみせたものの、それ以降は入賞圏の外縁をうろうろするばかりで進展がない。けっきょくサマーブレイク後の猛烈な追い込みでポイントを重ねたが、前にいるサウバーやフォース・インディアとの距離は去年よりも間違いなく開いている感じだ。もしこれでドライバーが去年のままだったら、とふと思ってしまうが、ここは素直に若造二人の学習能力に期待するほかないだろう。

ウィリアムズ・ルノー 7/10 (Pマルドナド7/10、Bセナ6/10)
前年の大不振から一転、今季は八年ぶりの優勝をあげるなど躍進の年となったウィリアムズ。マルドナドは今年に入ってクラッシュ癖がひときわクローズアップされる結果となったが、予選のペースはシーズンを通してなかなかのものであった。ベネズエラから莫大なスポンサーフィーをもたらしており、将来性もあるのでチームにとっては手放したくない人材だろう。セナは凡庸な戦績で終ってしまったが、チームがぞっこん惚れしているボッタスに金曜FPのシートを奪われるなど、割を食っているようなところが否めなかった。しまいにはレースシートまでぶん取られてしまうのだから悲しいが、彼には新天地での活躍を期待したい。

ケーターハム・ルノー 3/10 (Hコバライネン6/10、Vペトロフ4/10)
昨年の大躍進から一転大スランプという、ウィリアムズと逆のコースを行っているようなチーム。去年の暮までコース上でウィリアムズの尻を追い掛け回していたというのに、である。戦犯はおそらくデザイナーのマイク・ガスコインだろうか。小規模チームゆえ開発が速くないのは仕方ないとしても、今季は遅さがあまりにも目立っていた。コバライネンが開幕戦以外ですべて完走しているのはやはりベテランの意地、元マクラーレンの面目躍如というべきか。ひるがえってペトロフは精彩のないシーズンだったが、ブラジルでひたすら地味に11位完走を果たし、ライバル・マルッシャからコンストラクター選手権の順位 (とそれに付随してくる分配金) をもぎ取ってきたのが見せ場といえば見せ場だった。チームがこのまま没落していきそうな勢いなのは寂しい限りだが、現状がおおきく改善されるめどはまだ立っていないと見るべきだろう。

HRT・コスワース 1/10 (Pデラロサ4/10、Nカーティケヤン2/10)
もはや様式美となった開幕からの堂々予選落ちを今年もぶちかまし、挙げ句の果てにはチームが消えてしまうといった茶番っぷり。シーズン中から資金繰りが苦しそうなところではあったが、まさかこんなに早くフェードアウトしてしまうとは予想外であった。ベテラン、デラロサをもってしても状況はどうしようもない。こういうひたすら存在感もなく、ただ下位を走っているばかりのチームを見ると、ひところのユーロブルンやコローニといった面々を想起してしまう。最後までまったくTVに映らないチームだった。

マルッシャ・コスワース 4/10 (Tグロック4/10、Cピック3/10)
ケーターハム、HRT同様ドライバーの採点が低いが、こんなチームにいればどんな走りをしても目につくはずはないのである。なのでグロックは単純にベテラン補正での点数と考えた方がいい。最高位は両ドライバーともに12位で、実力はそこそこ拮抗しているのかもしれない。グロックが車の文句を言いながらもよく走っていたところを見ると、腕はまだグロックに軍配が上がるのかもしれないが。テクニカル面が徐々にだがしっかりし始めてきたことと、資金の心配をそれほどしなくてもいい点で、ケーターハムより将来性があるかもしれないチームである。いつまで生き残っていられるかはわからないのだが…。

2012年10月 7日 (日)

日本GP レビュー

今シーズンのF1も、終盤の今になってようやく序盤の混沌から抜け出し、それにともなって大まかな勢力図が見えてきた。まずレッドブルとマクラーレン、すこし遅れてフェラーリとメルセデスがトップグループで、それに続くサウバー・フェラーリ、フォースインディア・メルセデス以下が中団グループと目されていた。なかでも堅実な車作りに定評のあるサウバーはすでに中団グループの筆頭と目されていて、今年はすでにセルジオ・ペレスがマレーシア、カナダ、そしてイタリアで表彰台を獲得して、選手権ポイント106点でランキング五位に位置していた。ペレスは新進気鋭の若手ドライバーの見本のような存在で、すでにその才能を買われて来年からマクラーレンに移籍することが決まっていた。しかしもう一方の小林可夢偉にとってはそうらくな状況ではなかった。彼はこれまでのレースでもこつこつポイントを稼いではいたが、ペレスのようにわかりやすく目立つ成績を残せてはおらず、ややアピールにかける状態がこのところ続いていた。また彼にはペレスやリザーブドライバーのエステバン・グティエレスのように、ほとんど無尽蔵の資金を提供してくれる大スポンサーが付いていなかった。ペレスとグティエレスにはメキシコ人の富豪が個人的な支援を申し入れていて、メキシコの大手通信会社もそれに付帯するようにチームを支援していたので、小林がチーム内での立場をなんとか取り戻すには、なんとしてもこのあたりで存在感を示してみせる必要があった。鈴鹿はそれにうってつけのコースだった。鈴鹿は低速から中速までのあらゆるコーナーがバランスよく配されたヨーロッパ・タイプのテクニカル・サーキットで、うまく攻めるのはとてもむずかしいコースだったが、どちらかというとバランスタイプの車である今年のサウバーにとってはよくマッチするはずであった。また、鈴鹿は彼がジュニア時代から何度も走りこんでよく知っているコースだった。今年最大のチャンスといってもよかった。

フリー走行から気を吐いたのは、やはりレッドブルとマクラーレンのニチームだった。彼らとチャンピオン争いをしているはずのフェラーリはセットアップがまとまらず、フリー走行の段階ではうしろのほうにいたが、もともと彼らの車はこのコースを不得意とすることが予想されていたので仕方がなかった。小林は金曜日の走行をそれぞれ六位と十三位で終えた。彼にとってはまずまず平均的なタイムだった。土曜日午前のウォームアップでは1分32秒924で、ふたたび六位に入った。ペースは上々だった。

ところが土曜午後の予選は、終盤のアクシデントのせいで大混乱におちいることになった。最終アタック・セッション終了間際に、ロータスのキミ・ライコネンがスプーンカーブでコントロールをうしない、スピンしてコーナー外側のサンド・トラップに止まってしまったのである。すぐにマーシャルポストに黄旗がひるがえったが、わるいことにちょうど各車が最後のアタックをしかけようとするタイミングだったのである。ライコネンはつぎのように言った。
「ちょっと攻めすぎたかもしれない。車の感じは良かったから、残念だ」
けっきょく、彼はその前に一度出していたタイムで予選八位を得た。
小林可夢偉もちょうどその瞬間にスプーンカーブ手前にさしかかっていた。彼は黄旗を認めると、立ち上がりのアクセルオンをわずかに遅らせ、バックストレートでDRSを切ってスローダウンした。これで0.4秒ほどロスした。しかしこのアクシデントでいちばん損をしたのはフェルナンド・アロンソだった。彼はいらいらしたようすでこう言った。
「最悪のタイミングでイエローフラッグが出た。そこまでのラップは素晴らしかったし、今日の4番手タイムを記録するあらゆる可能性があった。3番グリッドからスタートできるはずだったんだ」
しかし起こってしまったことはどうしようもなく、彼は7位のタイムで我慢しなければならなかった。フロントローに並んだのは、予選開始と同時に飛び出していったレッドブルの二台だった。マクラーレンのジェンソン・バトンが三位に滑り込んだが、彼はシンガポールでのトラブルのあとでギヤボックスを載せ換えていて、5グリッド降格のペナルティが確定していたので、実質は八位からのスタートだった。

小林可夢偉は1分31秒700で四位だった。ベッテル、ウェバー、バトンのみがこのタイムを上回っていた。彼は上機嫌だった。
「今日は最大限の力を引き出せたと思うので満足している。この位置からなら表彰台をかけて戦うチャンスがある」
事実、彼はアロンソ、ライコネン、ハミルトンといったワールドチャンピオンよりも前でスタートすることになっていて、その上バトンのペナルティを考えると三位からのスタートになるのである。順位をただそのままキープするだけで自動的に表彰台が転がり込んでくるのだった。同じ表彰台でも、母国のグランプリとそれ以外のグランプリでは価値がぜんぜんちがった。しかし彼は、それがどんなにむずかしいことかもよく知っていた。ベルギーでも予選二位になったことがあるにはあったが、その時はスタート直後につまらないアクシデントに巻き込まれて入賞の機会すらなかったのである。そんなことはなんとしても避けたかった。

日曜日のレースのスタートが切られたのは午後二時だった。しかしそれはとても順調なスタートとはいえなかった。スタート直後の第一コーナーでグロージャンが大きく車を蛇行させて、ウェバーの車に衝突したのである。これで後続は大混乱におちいった。小林は抜群のスタートで二位に上がっていたので巻き込まれずにすんだが、この混乱でウェバー、グロージャンは最後尾に落ちてしまった。やりきれないのはアロンソだった。彼はうしろのほうの混乱に巻き込まれ、ライコネンに接触されてリタイヤしてしまったのである。これで彼のチャンピオン争いにおける立場はますます苦しいものとなった。マクラーレンの二台に十位スタートのニコ・ヒュルケンバーグ、十一位のフェリペ・マッサはなんとか混乱を泳ぎ切り、それぞれ労せずしてポジションを上げることに成功した。これで順位はベッテル、小林、バトンの順になった。小林にとって、スタートしてからも前に車が一台しかいないというのははじめての経験だった。

十三周したところで、バトンが先頭を切ってタイヤ交換のピットストップをおこなった。彼の車はサウバーよりもタイヤの持ちがよく、それを知っていてあえてあたらしいタイヤで小林の機先を制しようとしたのだった。しかし次の周に小林がピットインを終えてコースに戻った時、二台の位置関係は変わっていなかった。小林とバトンはそれぞれ四位と五位で、三位にはトロ・ロッソのダニエル・リカルドがいた。リカルドはひさびさに回ってきた入賞のチャンスを逃すまいと懸命に逃げた。やっと小林が彼を抜いていった時、すでに後方にいたフェラーリのフェリペ・マッサが二位になっていた。差は約3秒だった。彼にとって幸運だったのは、後方のバトンがギヤボックスの不調をふたたび訴え始めて思うようにペースが上がらないことと、チームメートのセルジオ・ペレスがヘアピンでスピンしてリタイヤしたことだった。これで彼はチームメートにも誰にもうしろを脅かされる心配をすることなくレースができるようになった。

小林可夢偉が二回目のピットストップをおこなった次の周に、バトンもピットインした。ここでバトンのピットクルーがミスをした。右リヤのホイール・ガンがうまく噛まず、一秒ほどロスしたのである。これでまた差がすこし広がった。ところが、二回目のピットストップをすこしすぎたあたりから雲行きがおかしくなりはじめた。ギヤボックスがよくないはずのバトンが、急にペースをあげて差をつめはじめたのである。それまで3秒以上あった差が、たった二周か三周しただけで2秒にまで縮まったのだ。バトンは一周に0.5秒かそれ以上のペースで追い上げてきていた。いくらサウバーの車が性能がいいとは言っても、中団グループのトップ争いはできてもトップチームと互角に渡り合うにはあきらかに力不足だった。いまや期待できるのは小林の腕だけだった。そうこうしているうちにもバトンはどんどん迫ってきて、残りが十五周になった三十八周目にははやくも1秒5のところまでやってきていた。小林のタイヤはすっかりすり減ってしまっていて、ブレーキングポイントひとつにも気を使う始末だった。反対にバトンはすばらしいペースを維持していて、計算上は十周もしないうちに小林を抜いて三位に上がってくるはずだった。小林も四十一周目からペースをあげ、一旦つまった差をわずかに戻すことに成功したが、またすぐにうしろに迫られてしまうのは明白だった。バトンの車は小林の車よりもずっと仕上がりが良く、ギヤボックストラブルが嘘のようなハイペースで飛ばしていた。

五十一周目のヘアピンで、バトンが小林の1秒差以内に入ってきた。最終コーナーの立ち上がりで1秒差以内に入っていれば、DRSを起動して大幅に差を詰められるのである。一度抜かれたのをまた抜き返す余力は、小林には残っていなかった。その周のスプーンカーブの立ち上がりで、小林は1000分の73秒だけバトンを突き放して、なんとか後方1秒からバトンを追い落とすことに成功した。まるで職人芸だった。グランドスタンドの応援のボルテージはほとんど興奮死寸前に達し、いたるところで日ノ丸の小旗が打ち振られた。すばらしい光景だった。しかしそれも長くは続かなかった。最終ラップに入った五十三周目のホームストレートで、ついにバトンがDRSを開いたのである。この時点でバトンと小林とはまだ1秒弱の差があり、接近はしたが抜くことはできなかった。しかしそれは、コース後半の高速セクション手前で確実にバトンが小林を射程圏内に入れてくることを意味していた。その周のヘアピンでまた少し差が縮まった。スプーンカーブでもバトンは攻める構えをしてみせたが、まだ決定的なきっかけは掴んでいなかった。残るはシケインだった。すでにトップを走るベッテルは、意気揚々とホームストレートに帰ってきて、右手を高々と掲げて勝利を誇示していた。

小林可夢偉が三位のポジションを守りきってピット前のストレートに帰ってきたとき、バトンとの差はわずかに0.5秒しかなかった。日本人ドライバーがグランプリの表彰台に登るのは、2004年アメリカグランプリの佐藤琢磨以来のことで、鈴鹿でとなると1990年の鈴木亜久里以来22年ぶりだった。予選、レース、タイヤ戦略、すべてがうまくいったレースはほんとうにひさしぶりだった。サウバーにとっては、戦略による逆転に頼らず、堂々と戦って手に入れた三位だった。小林にとっても、はじめての表彰台が母国グランプリであるということは特別な意味を持った。同じ表彰台でも、鈴鹿の表彰台は勝利にすら匹敵する価値を持つのだった。

すさまじいレースだった。最後の十周は、その場から逃げ出したくなるような緊張感だった。小林はレース後、こう語っている。終盤の攻防と、このレースのレースのすべてをも物語る言葉だった。
「最後はリヤタイヤの状態が非常に悪くて、ひどいオーバーステアが出ていた。それでもぼくは表彰台フィニッシュのためにプッシュするしかなかった。フィニッシュラインを超えたとき、全てのプレッシャーから解き放たれて、すぐにリラックスできた。ぼくのキャリアにとってとても重要なレースだったことは間違いないね」

2012年9月27日 (木)

シンガポールGP レビュー

F1シーズンのヨーロッパ・ラウンドをしめくくるイタリア・グランプリが終了した時点で、チャンピオン争いのトップにいたのはフェラーリのフェルナンド・アロンソだった。彼はマレーシア、ヨーロッパ、ドイツの三レースで勝ったのをはじめとして、179点を獲得してランキング1位の座を守っており、それに37点差でマクラーレン・メルセデスのルイス・ハミルトン、以下レッドブル・ルノーのセバスチャン・ベッテルにマクラーレンのジェンソン・バトン、ロータス・ルノーのキミ・ライコネンが続いていて、このあたりまでが事実上のチャンピオン候補ということができた。シンガポール・グランプリの結果次第で、この候補が二人か三人くらいに絞り込まれる可能性はじゅうぶんあった。

そのシンガポール・グランプリでも、抜きん出た速さを見せるのはマクラーレン・メルセデスだと思われた。マクラーレンはハンガリー、ベルギー、イタリアと三連勝していて、その勢いはまだ衰えないだろうと思われていたからだった。しかしシンガポールは低速セクションの多い市街地コースで、そのことがパワーに劣るが操縦性にすぐれるルノー・エンジンを使用するレッドブルとロータスに有利に働くのではないかという者もいた。そして実際そのとおりになった。ベッテルが三回のフリー走行すべてでトップタイムを記録して、レースのみどころがマクラーレンだけではないことを示してみせたのである。しかし三回とも、うしろにはマクラーレンがぴったりとくっついていて、レッドブルも楽に勝てそうではないことは明らかだった。

予選は大方の予想通り、マクラーレンとレッドブルの一騎打ちになった。しかしベッテルはポール・ポジションをかけた最後のタイム・アタックでミスをおかし、ハミルトンのみならず、車の調子がよかったウィリアムズのパストール・マルドナドにも前に入られてしまい、予選三位からレースをスタートすることになった。アロンソは依然、車の状態が思わしくなく、フォース・インディア・メルセデスのポール・ディ・レスタを抑えて五位からスタートするのがやっとだった。レースでもアロンソはあまり問題にならなそうだった。むしろ大きな問題はハミルトンの隣に並んだパストール・マルドナドだった。彼はこれまでにも何度もレース中に無謀な追い抜きをしかけて他車と接触していたので、今度もまた何かトラブルを引き起こすのではないかとささやかれていたのだった。1点ですら貴重になってくるこの局面で、そんなつまらないトラブルでリタイヤしたのではたまらなかった。

レースがスタートすると、ハミルトンはすばらしいスタートダッシュを見せて、前が開いているうちにぐんぐん逃げ始めた。マルドナドはスタートで失敗して、一コーナーまでにベッテルとバトンにあっという間にかわされて四位に落ちてしまった。トップで気持よく走っている時のハミルトンのペースはすさまじく、この時も一周しただけで二位に上がってきたベッテルにはやくも1秒以上の差をつけて帰ってきた。こういう形勢ではマクラーレンはまったく隙がなかった。ベルギーでもイタリアでも、序盤に飛び出したマクラーレンをレース中に捕まえることができたライバルチームのドライバーはひとりもいなかったのである。その上シンガポールのコンクリートに囲まれた、狭く曲がりくねったコースでは、前の車がよほどのミスをしてくれないかぎり追い抜きは不可能に近かった。十周もしただけで観客たちははやくもレースに飽きはじめていた。アロンソはこのとき五位の順位を守ったままで走っていて、前の車を抜く素振りもほとんど見せなかったので、ハミルトンがこのまま勝ってチャンピオン争いに名乗りを上げるだろうと誰もが考えた。

しかし二十三周目に、そのハミルトンが歩くようなスピードでコースの脇の退避路に滑り込んで止まってしまった。ギヤ・トラブルだった。一周に二十三ものコーナーがあり、そのうち四つがするどいヘアピン・カーブ状になっていて、一周のうちに八十回もギヤ・チェンジしなければならないシンガポールのコースが、機械に必要以上の負担をかけてしまったのである。それに亜熱帯の高温多湿な環境が追い打ちをかけた。ここでリタイヤしてしまえば大きな痛手をこうむるのは火を見る如くだったが、ギヤのこわれたF1カーを再スタートさせるのは無理だった。ハミルトンは悄然と頭を垂れ、車から降りるしかなかった。

このリタイヤでベッテル、バトン、マルドナドがそれぞれ一、二、三位にくりあがり、マルドナドのスタートでのミスも少しは取り戻された。ベッテルはこの時までにバトンに対してじゅうぶんな差を付けてはいたが、その後三十周目にHRTのナレイン・カーティケヤンがクラッシュして、セーフティーカーが出てきたせいでその差が帳消しになってしまった。いっぽう、マルドナドはセーフティーカーが入るすこし前にアロンソにかわされて、また四位にもどってしまった。彼の車のホイールからはブレーキのたびに大量のホコリが飛び出しているのが目で見てわかるほどで、彼がなんらかのブレーキ・トラブルを抱えているのは明らかだった。けっきょくマルドナドは三十六周目にリタイヤしてしまった。彼にしてはひさびさにめぐってきた得点のチャンスをフイにしてしまったのでおもしろくなかったが、どうしようもなかった。

セーフティーカーはカーティケヤンの車の残骸が片付くまで二周をゆっくり先導して走り、三十八周目にピットへ戻っていった。しかしそれからまたすぐに出直してくるはめになった。コースがクリアになった直後に、こんどはメルセデスのミハエル・シューマッハーがコース半ばの右コーナー入口で勢い余ってブレーキをロックさせ、トロロッソのジャン・エリック・ベルニュに追突してリヤウィングをもぎとったのである。この事故で破片がコースの上まで散らばったため、またしてもセーフティーカーが出てくることになった。バトンにとっては二度目のチャンスだった。すでにベッテルとの差はじゅうぶんすぎるほど縮まっていた。レースは六十一周であらそわれることになっていたので、まだ追い込む時間はたっぷりあると思われた。

しかしそこから、二台の差はほとんど変わらなくなった。ベッテルはここでなんとしても勝つ気だった。彼がここで優勝すると選手権ポイントが165点となって単独二位になるのだが、二位だと158点になって、レースの結果次第では逆転されてしまう可能性がわずかだがあったのである。彼にとってはもちろん、前者のほうがより望ましいのだった。いつまでもマクラーレンにばかり勝たれていたのでは面白くなかった。彼のレッドブル・ルノーは過去二年、彼を連続チャンピオンにしてくれた車で、シンガポールのような細かいコーナーを連続してクリアしなければならないようなコースではひじょうに強かった。

けっきょく、その後ふたたびトップが入れ替わることはなかった。ベッテルにとっては三月のバーレーン・グランプリ以来の優勝で、アロンソにとってはイタリアに続き二度目の三位だった。レース後、アロンソはいっこうに彼にとって有利にならない状況にたいして、つぎのように口にした。
「最終的にはうまくいったけど、このようなレースを続けていくわけにはいかない。過去2レースで起こったように、常にライバルがリタイアするわけではないし、僕たちのパフォーマンスがトップからほぼ1秒遅れていた昨日のような予選セッションをシーズンの最後まで続けることはできない」
フェラーリの優勝はいずれもシーズン序盤から中盤に、ライバルの不振やトラブルに乗じて勝ったようなレースで、車そのものの実力が他チームより劣っているのでしようがなかった。いまや絶対的な車の性能では、レッドブルやマクラーレンやロータスのほうがフェラーリよりずっと上だということは誰の目にも明らかだった。次のレースが行われる鈴鹿サーキットもシンガポールによく似た、低中速コーナーをバランスよく配置したとてもむずかしいコースだった。フェラーリの苦戦はまだしばらく続きそうな感じだった。

2012年8月11日 (土)

2012年F1・ハーフディスタンス採点表

先日のF1グランプリ第十戦、ハンガリー・グランプリをもって、今季のF1選手権も半分が終了した。夏休みを経て、8月31日にはじまるベルギー・グランプリから後半戦に突入していくのだが、ここでどのような勢力変化が起きるのかも興味深いところ。では、シーズン半分を消化したところでの各チームのパフォーマンス、下馬評との食い違いはどれくらいのものだったのだろう、というのをまとめてみた。今回はチーム以外に、ドライバー個人に対しても10点満点で採点を行なっている。以前書いた「シーズン前予想」や「序盤採点表」と見比べてみて、各チームどれくらいの前進・後退があったのか、見比べてみるのも面白いだろう。

レッドブル・ルノー 6/10 (Sベッテル 6/10、Mウェバー7/10)
決して遅くはないのだが、けっきょくシーズン前半戦で勢いに乗ることはかなわなかった。ライバルチームが相対的に力をつけてきて、いわば不本意なポジションで戦っている状態だが、過去二年、マシンのおかげで「乗れて」いたようなところがあるベッテルには、これは堪えるだろう。彼が「ただの若造」から正真正銘の「チャンピオン」へと躍進するカギは今シーズンにある、とも言える。ここで腐って投げてしまったらおしまいだ。ウェバーはようやく「影の薄い脇役」というありがたくない先入観から脱却しつつあるのだが、それもチームの状況次第なので、ことによっては後半戦は厳しいスタートになるかもしれない。開発能力には文句のつけようもないチームなので、手遅れになる前にどうにか躍進の足がかりを掴みたい。

マクラーレン・メルセデス 5/10 (Jバトン 4/10、Lハミルトン 6/10)
こちらも不振組。トップチームで唯一、開発の方向性が違う方を向いているチームなのだが、ここのところのチーム関係者・ドライバーの発言を見ると、どちらも暗に開発の失敗をほのめかしているのがわかる。特にバトンは、車があわないのか序盤以降は大苦戦。それでもほぼ毎戦のようにどこかしらにアップデートを投入し、必死の挽回を試みてはいる。ハミルトンがようやく力走を見せ始めたのが救いといえば救いか。とはいえまだ絶対的に速くなっているわけでもなく、継続的な開発努力が望まれる。

フェラーリ 7/10 (Fアロンソ 8/10、Fマッサ 4/10)
アロンソはおそらく今季ベストドライバーの資格を持つだろう。攻めるところと抑えるところをきっちり分けてきて、たとえば通常ラップを流し気味にしてインラップのためにタイヤをキープする走り方など、彼の頭脳的な面がよく出ていると思う。若いころは一種「中二病」のような性格だったアロンソも大人になったのだろう。マッサのほうはもうどうしようもないのだが、かといって彼に代わるほどの有能なドライバーが控えているわけでもなく、またマラネロにおける彼の妙な人望と相まってフェラーリの椅子につなぎ止められている。BSタイヤの元開発主任・F1タイヤのエキスパートである浜島裕英氏の加入で、タイヤマネジメントにおいて他チームに一歩先んじようという気概も見て取れる。2008年や2010年のようなバカな戦略ミスをしでかしていないだけ、ここまでのフェラーリには期待要素は多いだろう。

メルセデス 5/10 (Nロスベルグ 6/10、Mシューマッハ 3/10)
トップチームの端くれではあるのだろうが、どうにも全体的に遅い。メルセデスエンジンはある種「パワーで押せ押せ」的な性格のエンジンなので、タイヤにはさぞかし厳しかろう。もとからタイヤにやさしくないこのチームの車にはお世辞にもベストフィットとは言いがたいのだろうが…。ロスベルグは中国GP以降は堅実な走り方にシフトした感じ。シューマッハは速さはあるのだろうが、いつも運の悪さにたたられてか全くチャンスが生かせない。これではロスベルグの初優勝も遠からず霧の彼方へ霞んでいってしまうだろう。メルセデスにF1撤退の噂がつきまとう中、レースの神様に「勝利」という供物を献上しないことには、状況はさらに難しくなっていくばかりだ。

ロータス・ルノー 8/10 (Kライコネン 8/10、Rグロージャン 5/10)
「勝てる勝てる」と言われながら一勝も挙げずに前半戦が終ってしまったロータス。ライコネンは復帰初年度から、さすがチャンピオンという走りを見せてはいるが、どうも慎重すぎるきらいがあるように見える。仕掛けどころでもたつかずにズバッと仕掛けていくだけの度胸はあるはずなのだが(もっとも、その慎重さこそが彼の持ち味、という見方もできるが)…。グロージャンは一発の速さはそこそこのものながら、まだレースを通してのペース配分がヘタクソな様子で、もうちょっと慣れてこないと安定して上位には来れない気がする。チームとしてはライコネンに集中するのが得策かもしれないが、いずれにしてもどこかで優勝しないとチャンピオン・タイトルは厳しいだろう。

フォースインディア・メルセデス 6/10 (Pレスタ 7/10、Nヒュルケンバーグ 6/10)
中堅数チームの中ではたぶん一番速い。のだがどうも存在感が薄い。速いでもなく遅いでもなく、淡々とレースをしているからそう見えるのだろう。今のところはサウバーの茶番劇とトロロッソのドライバー選定の失敗によって、自動的にこの位置にいる感じが否めない。チーム側は先だって、リソースを来季用の開発にシフトすることを正式に発表した。つまりこれ以降大幅なアップデートは行われないということになり、後続数チームには多少なりとも戦いが楽になるだろう。どうもドライバーの影が薄すぎて採点のしようもないのが問題といえば問題か。

サウバー・フェラーリ 3/10 (Sペレス 8/10、小林可夢偉 5/10)
車も速いし、ドライバーも揃って腕が立つ。となるとあとは作戦ぐらいしかない。マレーシアやスペイン、ドイツなど、定期的に好成績を上げているが、なにぶんそれを帳消しにするようなつまらないミステイクが多すぎる。作戦がダメならピットワークもダメ、これではドライバーの心は荒んでゆくばかりだろう。チーム代表のペーター・サウバーが一部のドライバー(ハイドフェルド、フレンツェンなど)からの評判がよろしくないのも気がかりだ。ペレスは若い速さを評価して多めに点を入れたが、もうちょっと落ち着いた感じの走りを身につければ優勝が見えてくるだろう。小林は最近焦りすぎだと思うが、チームがあんな状態では責めるべくもない。抜本的な体制の改革が必要なのだが、チームの体力が思わしくない現状ではそれは難しいことかもしれない。若い才能を揃って叩き潰してしまうことのないよう願うばかりである。

トロロッソ・フェラーリ 2/10 (Dリカルド 4/10、Jベルニュ 3/10)
開幕戦でいい位置につけていて、今季に向けての期待を抱かせたのも今は昔、といった様相である。すくなくともブエミとアルグエルスアリ、どちらか一人でも残っていればこんなことにはならずに済んだかもしれないのだ。ベルニュはまだまだクラッシュも多く、実力は足りない。バレンシアではケーターハムに接触して消えてしまったが、一度こういうことをやらかしてしまうとチームからは信用されなくなってしまう。このままでは本当に「入賞一回のみ」でシーズンが終りかねない勢いだが、この重要時にTDのジョルジュ・アスカネリが離脱との噂が聞こえてきた。どうやらトスト代表とうまくいっていないらしいのだが、無理もない。いまのトロロッソは、他チームとレースをするための「F1チーム」ですらなく、「若手用のF1一年体験コース」のようなものなのだ。もともとチームの主要メンバーだったベルガーは、多分こうなることを見越して身を引いたのだろう。はやく「ベッテルを育てる夢」から醒めたほうがいい。

ウィリアムズ・ルノー 6/10 (Pマルドナド 4/10、Bセナ 5/10)
安定した入賞にはまったく問題ないのだが、なにぶんにも不要なクラッシュが多すぎる。マルドナドははやくGP2的な思考回路から脱却した方がいい。セナは奮闘しているようだが、もうちょっと存在感のあるレースがしたいところ。チーム的に問題が見当たらないのがポジティブ要素なので、完走率がもうちょっと上がれば自ずから連続入賞の道筋も見えてくるだろう。今シーズンになって大いにクラッシャーとしての名声を上げたマルドナドだが、来年彼はどんなことになっているのだろうか。余談ながら、チーム首脳は若く才能のあるテストドライバーのバルテリ・ボッタスにぞっこん惚れで、いつかレースシートを用意してやりたいとの魂胆のようである。セナは気をつけた方がいいかもしれない。

ケーターハム・ルノー 3/10 (Hコバライネン 5/10、Vペトロフ 5/10)
相変わらずTVに映らないレースばかりしている。昨年の勢いはどこへやら、ドライバーは平均点以上の仕事はしていると思うのだが、まったくもって改善が見られない。小規模なチームなので開発やアップデートに限界があるのだろうが、それにしても開幕前の期待が大きかっただけに失望感もひとしおだ。下位2チームほど絶望的に遅くはなく、かといってウィリアムズのしっぽを掴むほど速くはない。いわば戦う相手のいない一人旅である。これが面白いはずもなく、コバライネンには複数チームへの移籍話が浮上している。今季がこのまま終ってしまうとしたら寂しい限りである。

HRT・コスワース 2/10 (Pデラロサ 6/10、Nカーティケヤン 2/10)
底辺チームでとてつもなく遅い、というのはわかるのだが、いつも同じようなところばかり走っていて評価のしようがないというのが実情である。正直に言って、こういうチームの採点をするのは非常に面倒くさい。デラロサはたんにドライバーとしてだけではなく、サラと共同でチーム全体を牽引していく大仕事をこなしているあたり、評価は高めだ。カーティケヤンはいつ消えても驚かない。そもそも気づくかどうかも疑問である。

マルッシャ・コスワース 3/10 (Tグロック 3/10、Cピック 4/10)
はっきり言う。何を書けばいいのやらまったくわからない。グロックは車の批判をしはじめたが、チームの信を失することも覚悟のうえなのだろう。パット・シモンズのご威光もここまで、といった趣か。ピックは若手急進株と取りざたされたりしているが、このチームではやはり評価のしようもない。グロックなど、なまじ才能があるだけに、こんなところでキャリアの余生を静かに送るだけの生活をしているのが残念でならない。

2012年7月 9日 (月)

イギリスGP寸評/ F1コラム:「入賞」というファクター

ことしのイギリス・グランプリは、五十二周のレースのうち四十八周までをリードした、ポール・シッターのアロンソがやぶれ、さいごの四周だけをリードしたマーク・ウェバーが優勝するという結末をむかえた。文字で書くとずいぶん劇的な感じがするが、じっさいに見ている分にはそうでもなかった。アロンソの序盤におけるリードは、性能のいいほうのハードタイヤでアタックしつづけることと引き換えに得たもので、その代償としてかれは最後のほうになってソフト・タイヤに履き替えなければならないことは明白だったからである。三十八周目にピットインしたアロンソが出てきたとき、二位のウェバーとの差は4秒とすこしだった。ぼくは、心のどこかでアロンソがヨーロッパ・グランプリでみせたようなすばらしい走りをもういちどしてくれることを期待しながら、しかしこれまで一年間、「ピレリ・タイヤのレース」につき合ってきた経験で、おそらくそんな差ではアロンソはすぐに抜かれてしまうだろうと思った。欲をいえば、ウェバーとの差は最低でも10秒ぐらいはほしかった。ソフト・タイヤは、真夏のイギリスのような涼しさのある天気でもすぐにダレてしまって、つかいものにならなくなってしまうのである。それでもアロンソは懸命にブロックしたが、四十八周目のウェリントン・ストレートのおわりのほうでインからつっこんできたウェバーを、ふたたびしりぞけることはかなわなかった。そして、体制を立て直してこれを追撃することもできなかった。消耗しきったタイヤが、それをゆるさなかったのである。同じようなことはミハエル・シューマッハのほうにも起こっていたが、アロンソはまだ二位をキープしてレースを終えることができただけ、幸運だっったかもしれない。   
   
こんどの優勝で、マーク・ウェバーはアロンソにつぐ二人目の「二勝ドライバー」となり、また選手権ランキングでもアロンソの129点にたしいて116点とつめよった。ドライバー選手権はまだまったく先が見えない戦いがつづいているが、コンストラクター選手権のほうはどうもそういうふうにはいかないようである。そこで、チームにとっての「入賞」ということについてすこし見ていきたい。    
   
現在、F1の選手権ポイントは10位の車にまで与えられることになっていて、十位が1ポイントである。2009年までは八位が1ポイント、2002年までは六位が1ポイントで、この「六台入賞」制度がF1発足以来、じつに五十二年間つづいていたというわけだ。入賞枠の拡大にはいろいろ事情があるのだが、「チーム間の格差が埋まってきて、相対的に競争がはげしくなってきた」というのも一因であろう。つまり、昔のようにエンジンやギヤボックスを壊して、はやばやとレースから消えてしまう車がなかなかなくなったため(ヨーロッパ・グランプリでのルノー・エンジンのトラブルは、それほどの衝撃であった)、完走する車がつねに二十台前後という状況になってきたのである。それで、各チームが実力に見合った見返り(即物的に言えば選手権ポイントということになる)を公平に得られるように、ということで、入賞枠が拡大された、という話をどこかで聞き及んだことがある。理由としてはさもありなんだと思う。しかし、こうした対策にもかかわらず、F1からある種の「おもしろみ」が欠けてしまっているように感じる。「意外性」のもたらすおもしろさである。    
   
2012年はまだシーズンが終っていないので、ここに2011年のデータを引用したく思う。これによると、参加十二チームのうち、選手権ポイントを獲得したのは九チーム、そのうち「シーズン通して一度のみの入賞」に終ったチームはゼロなのである(最低がウィリアムズの三回。ドライバーならマルドナドとセナがいる。くしくも次の年にチーム・メート同士となる二人である)。つまり、毎度毎度、おなじメンバーばかりが入賞争い(優勝争いではない)を繰り広げていることになるのだ。2011年でいえば、たとえばウィリアムズが五点しか取れていなかったり、後半になってルノー(現ロータス)がめっきり調子を落としたり、といったことはあったが、ポイント・テーブルを見渡してみれば、だいたいがおなじチームである。    
   
そこで、これのちょうど二十年前ということで、一九九一年のデータをめくってみると、一度のみの入賞に終ったチームがサンマリノ五位・六位のロータスとハンガリー六位のマーチの二チーム、二度だとアメリカ六位・カナダ六位のラルース、サンマリノ三位・モナコ六位のスクーデリア・イタリア、ベルギー六位・日本五位のブラバム、サンマリノ四位・ポルトガル四位のミナルディと四チームいて、合計で六チーム。入賞一回のみのドライバーでは、アメリカ五位の中嶋悟、同六位の鈴木亜久里、サンマリノ三位のレート、モナコ六位のピロ、メキシコ六位のベルナール、ハンガリー六位のカペリ、ベルギー六位のブランデル、日本五位のブランドル、そしてオーストラリア六位の代走モルビデリの九人。いかにポイントがばらけたかがおわかりいただけるかと思う。つまり、ほぼ毎レース、入賞圏の末席の顔ぶれが違うのである。この年はマクラーレン・ホンダの常緑樹に虫が食い始め、かわってウィリアムズがいちじるしく台頭。その一歩後ろでフェラーリとベネトンがひかえる、といった構図で、基本はこの顔ぶれが毎回、優勝争いに絡んでいる。いわばこんにちのレッドブル・マクラーレン・フェラーリである。事実、九一年にマクラーレンとウィリアムズ以外で優勝しているのは、わずかにカナダ・グランプリでベネトンが勝った一回のみ、それもウィリアムズのマンセルのトラブルに乗じて「落ちてきた」勝利であり、けっして今年のようなわかりやすい大乱戦のシーズンではなかった。    
   
参考までに、一九九○年のデータも付記しておくと、一度しか入賞しなかったドライバーはアメリカ五位のモデナ、モナコ五位のカフィ、フランス二位のカペリ(意外な気もする)、ベルギー六位のグージェルミン、日本二位の代走モレノの五人。入賞一回のチームがアメリカ五位のブラバムとモナコ五位のフットワークの二チーム、ついで入賞二回が二チーム(ロータス、レイトンハウス)となっていて、この年は比較的、順位が固定されていたということができる。    
さかのぼって、八九年はドライバーがブラジル三位のグージェルミン、モナコ三位のモデナ(これまた意外)、メキシコ六位のタルクィーニ、アメリカ四位のダナー、カナダ三位のチェザリス、同五位のアルヌー、フランス六位のグルイヤール、イギリス六位のサラ(現HRT代表。ミナルディ好きには有名なレースだろう)、スペイン六位のアリオー、オーストラリア四位の中嶋(これまた有名なレース)と十人、チームのほうは一回がレイトンハウス、AGS、リアル、ラルースの四チーム、二回がスクーデリア・イタリアとオニクスの二チームとなっている(ミナルディは三回。この年はミナルディ・ファンにとって忘れがたい一年だっただろう)。NA元年で、ある程度チーム間の実力が均衡したせいだろうか。    
   
よく、この時代のF1を生で見ていたひとびとの「あの頃のF1はおもしろかった」という声を聞いて、その時代を肌で感じていない、あるいはその頃F1を見ていなかったひとびとは首を傾げるであろう。この時代のF1のおもしろさというのは、つまりこういうことなのである。上位陣があるていど固定され(この時代の有力チームのなかでも、花形チームはマクラーレン・フェラーリ・ウィリアムズ、そしてそのすこし下にベネトンという四チームだった)、そしてその下のBクラスチーム以下が強烈な戦国絵巻だったのである。八九年のオニクス、九○年のラルースのように、予備予選への参加を義務付けられていたチームが表彰台にのぼることさえあった。今の状況でいえば、たとえばマルシアが表彰台に立ったり、ケーターハムがダブル入賞するようなものである。    
   
だがしかしというか、この事実の裏側にはある目立たない理由が隠されている。リタイヤ率の高さである。今でこそ、F1レースでリタイヤするのはいつも二台か三台ぐらいだが、このころはそうではなかった。予選フルグリッドが二十六台、そしてレースを走りきって帰ってくる車は平均十台ちょっとが常識で、あとの半分は途中でどこかをわるくしたり、クラッシュかスピンアウトで、フィニッシュラインへたどり着くことなくレースを終えてしまうのである。マクラーレン・ホンダやウィリアムズ・ルノーのようなトップチームでさえも、二台が二台とも得点して帰ってくる確率は半々よりすこし多いぐらいだったように思う。セナやマンセルといったトップ・ドライバーも、今と比べると信じられないリタイヤ率である。特に九一年序盤のウィリアムズや同年中盤~翌年のマクラーレンのように、車にどこか根本的な欠陥があればなおのこと。そして中位チームは、ほぼ毎レース、かならず二台以上の車がエンジンから派手に煙をあげてリタイヤしていた。こんにちのF1で死語と化しつつある「エンジン・ブロー」である。ぼくが最後に印象的なエンジン・ブローを見たのは2008年のハンガリー・グランプリあたりだが、この頃から、F1カーは一気に「不死の鳥」と化していった。規則によって、一年に八台のエンジンでやりくりすることになっているから、ある意味必然ともいえる。    
   
こんな時代な上に、ポイントをもらえるのは六台だけだから、一点の重みはいやがうえにも増す。九○年のモナコ・グランプリ、ベルナールとフォイテクが六位のポジションをあらそって、レースの終りに演じたはげしいバトル。八九年のポルトガル・グランプリで、ヨハンソンがバースト寸前まで摩滅したタイヤをほとんど引きずるようにして、三位表彰台にすべりこんだあの走り。同年イギリス・グランプリで、チームを死地からみごと救い上げたミナルディ・ドライバーふたりの入賞。普段は目立たないチームなだけに、その一点、入賞一回の意義もまた、とてもおおきくなるのである。チームのほうもまさに「死に物狂い」という風体だったが、F1というのは本来、そういうものではないか。    
   
ひるがえって現在である。2011年は実質、九チームだけが選手権レースに参加しているような感じで、あとの三チームはまったくもって蚊帳の外といった体たらくであった。九チームで十八台。そして、そのうちレッドブル、マクラーレン、フェラーリの三チームは、よほどのことでもない限り二台そろって入賞するだろうから、六台分の「座席」が埋まる。残るポイントは実質四台分。これを、絶不調だったウィリアムズを除外するとして(たった)十台であらそっていたのが去年のF1なのである。顔ぶれが固定されてくるのも仕方がない。ようするに、「安定しすぎて」いるのではないかと思う。たとえば八九年だと、マクラーレン、ウィリアムズ、フェラーリが「Aクラス」、ベネトンが「Aプライム」といったところにいて、ウィリアムズとアロウズあたりがBクラスになる。その下のコローニやブルン、ヅァクスピードといった「明らかにどうしようもない」チームを除外すると、あとはほとんど全員が「Cクラス」なのである。Cクラスというのは本来、入賞はできない程度の実力なのだが、ふとした拍子でAやBの車がリタイヤすると、そのおかげでポイントが一点か二点、あわよくば表彰台の末席を取れる位置にいる、ということになる。その辺をチームもドライバーもよく知っているし、そのチャンスが今のように貴重なものでもない(ヨーロッパ・グランプリでベッテルがストップした瞬間、ぼくは思わず声を上げてしまった。フェラーリに勝機が回ってきたよろこびもあったが、それ以上に「現代F1においてトップチームの車がトラブルでストップした」という事実の前に息を飲んだのである)ことも知っていたから、みんな「入賞一歩手前」あたりの順位めがけて殺到していったのである。それで競争が激化し、見るものはみな「おもしろい」と感じたのだ。今のF1だと、上のほうの九チームはぜんぶがぜんぶ「Aクラス」で、あとの三チームがみな「Dクラス」、しかも入賞範囲がちょうどそのAクラスの間尺に合うぐらいに設定してあるせいで、小競り合いがなかなか生まれないのである。今年に入ってウィリアムズが力をつけ、入賞あらそいをするチームがひとつ増えたことで状況はいくぶん良くなったが、それでもまだ、「あの時代」には及ばないのではないかと思うのである。    
   
思うに、2011年のF1があれほど「つまらない」といわれた影には、ベッテルのすさまじい独走という以外にも、こんな事情があるんじゃないかとも思う。九一年もつねにマクラーレンとウィリアムズのどちらかが勝っていたが、そのうしろのバトルが熱かったおかげでみんな退屈せずにすんだのである。そして、過去同様に「つまらない」といわれてきたシーズンの代表格である八八年と九二年を見ると、つねにひとつかふたつのチームだけが優勝をしていることのほかに、「入賞しているメンバーがいつも同じである」ということに気がつくのである。

2012年5月15日 (火)

スペインGP レビュー

二〇一二年のF1シーズンは、四戦した時点で四つのちがったチームからそれぞれ四人のドライバーが優勝するという、まったく先の読めない幕開けとなった。このようなことはじつに二〇〇三年以来のことで、それでなくても去年のシーズンで単調なレース展開にあきあきしていた観客はこれをよろこんだ。勝負の行方がまったくわからず、したがって理論上はどこの誰にでも優勝するチャンスがあったからである。すでに第二戦のマレーシア・グランプリで、開幕前の予想では「とても優勝はできない」とされていたフェラーリのフェルナンド・アロンソが乱戦を制して優勝しており、また第三戦の中国グランプリではメルセデス・チームのニコ・ロスベルグが、「タイヤに厳しい」というマシンの不利を覆して、初優勝を飾っていた。こんなシーズンはひさしぶりだった。

開幕四戦が過ぎ、F1がヨーロッパ大陸に戻ってくると、チームのスタッフやドライバーはみな一息ついてリラックスした気分になった。不慣れな土地や気候やまったく新しい車の心配をすることなく、ちゃんとした土地にあるちゃんとしたサーキットでレースができるからである。車のほうもここ数戦で必要な熟成作業はすべてすんでいたが、レースに先だってイタリアのムジェッロというところでおこなわれたテスト走行の結果をうけて、新パーツを投入しているチームもあった。金曜日の練習走行では、午前中にフェラーリのフェルナンド・アロンソが最速タイムを出して地元の観客をよろこばせたが、午後になるとマクラーレンのジェンソン・バトンにトップタイムを奪われて、六番手にまで落ちてしまった。スペインはいうまでもなくアロンソの地元で、パドックのひとびとは、彼は地元の観客にいいところを見せようとして、午前中は特別にがんばったのだろうと思った。

土曜日の予選になると、グランプリにおける勢力図はいよいよはっきりしてきたかのように見えた。午前中の練習走行ではレッドブル・ルノーのセバスチャン・ベッテルがトップ・タイムを記録したが、予選になるとマクラーレン・メルセデスの二台が飛び出していき、特にルイス・ハミルトンが第一段階から他をまったくよせつけないようなスピードで走り、スタンドを沸かせた。しかし、第一段階も終わろうかというところになって、ウィリアムズ・ルノーのパストール・マルドナドが僅差でトップ・タイムを記録していったのであった。そして彼は第二段階でもまったく同じことをしてのけたのである。第二段階でタイムが伸び悩み、結果としてトップテンに進出できなかったマクラーレン・メルセデスのバトンやレッドブル・ルノーのマーク・ウェバー、フェラーリのフェリペ・マッサとは対照的だった。ウィリアムズは誰もが尊敬する歴史を持つ名門チームのひとつだったが、去年は一年間で選手権ポイントをたったの五ポイントしか獲得できておらず、今シーズンへの期待も低かった。それだけに、マルドナドのとつぜんの活躍は意外な伏兵の出現として受け止められたが、彼が数時間後によもやポール・ポジションから優勝しようなどと考えたものはそう多くなかった。ウィリアムズ・チームの車は、まだ単純な速さにおいて上位数チームと互角に戦うだけの実力を伴っていないというのが大方の見解であったからだ。それに、マクラーレンに乗るルイス・ハミルトンの車は、マルドナド以上にうまく仕上がっているように見えた。それを証明するかのように、第三段階になってハミルトンは他車を0.5秒ちかく引き離すタイムで、ポール・ポジションの男となったのである。マルドナドは最後のアタックでアロンソを百分の一秒ほど追い抜いて第二位であった。

しかし、その日の午後になって、ハミルトンは予選タイムを抹消されてしまい、最後尾の二十四位からスタートする破目になった。彼は第三段階で車を軽くするためにギリギリの燃料だけを積み、予選終了後にガス欠になってコース上に止まってしまった。しかし予選に参加した車はセッション終了後に競技委員にたいして1リッター分の燃料サンプルを提出することになっていて、ハミルトンはそれができなかったのでペナルティを下されたのであった。これで彼が優勝する機会は事実上なくなり、レースはかわってポール・ポジションにつけたマルドナドと、そのすぐうしろのアロンソの間だけで争われることになりそうであった。

はたして、日曜日のレースになると、アロンソがスタンドを埋める母国の大観衆の目前ですばらしいダッシュを決め、マルドナドのインサイドに並びかけた。マルドナドもインへ寄せて妨害したが、彼もクラッシュでレースを終えたくは無かったので、必要以上にブロックすることをしなかった。二台はアロンソが前を行き、マルドナドが隊列を引き連れて後を追うかたちで、第一コーナーへ飛び込んでいった。しかし観客の目には彼らの車はいまにも接触しそうな距離で駆け抜けていったように映り、彼らは口ぐちに自分たちがたったいま目にしたことを興奮した面持ちで語り合った。しかしアロンソはすでに危なげなくトップをひた走っていて、マルドナドは一周目を終えたところではやくも一秒以上の差をつけられていた。彼はまず、スタートで飛び出してそのまま逃げ切るという、最初の勝負に失敗したのである。

二台のうしろでは、入賞圏内外のポジションをめぐってはやくも乱戦の様相を呈しはじめていた。ロータス・ルノーのキミ・ライコネンにロメイン・グロージャンを筆頭に、メルセデス・チームのロスベルグやレッドブルのベッテル、最後尾からめざましい追い上げで入賞圏内までなんとか這い上がってきたハミルトンに、調子が上向いてきたサウバー・チームの小林可夢偉、さらにはうしろのほうで機をうかがうフォース・インディアのニコ・ヒュルケンバーグにポール・ディ・レスタもいた。しかし誰もアロンソのペースには追いつけなかった。マルドナドはタイヤをいたわるために、あえてペースを大きくあげることをしないで、アロンソのペースにつきあって2秒ほど後方を走っていた。ピレリ製のF1用タイヤは耐久性にとぼしく、すこしでもプッシュしすぎるととたんに戦闘力をうしなってしまうので、ペース配分には特に慎重になる必要があった。

中盤になって、各車が二回目のタイヤ交換のためにちらほらとピットに入りはじめた。はやくピットに飛び込んだのはマルドナドのほうだった。二十四周目のことであった。これでキミ・ライコネンがかわりに二位になったが、彼もそのうちタイヤを交換しにピットへ入らなければならないことはわかっていたので、マルドナドはあわてなかった。彼にはアロンソにはないあたらしいタイヤがあり、もし作戦がうまくいけばアロンソがピットインした隙をついて彼の前に出ることができるのであった。そして二十六周目にアロンソがピットインした。フェラーリのメカニックが四輪を交換し、アロンソがピット・ロードへ向かって加速を開始したとき、マルドナドはピット前のストレートを駆けおりて、誰よりもはやく第一コーナーへ飛び込まんとするところだった。彼は見事、ポジションを逆転してみせたのである。

レースの終盤になって、いったんは引き下がったかに見えたアロンソがふたたびスパートしはじめた。彼はほぼ一周に一秒前後のペースで追い上げていき、レースが残り十一周となった五十五周目にはその差は一秒を切った。まったく機械のような正確さだった。しかしアロンソは第一セクターと第二セクターでは速かったが、第三セクターではマルドナドにわずかだがおくれをとっていて、その上最終コーナーのあとには長いストレートが待っていた。そこでどうしてもマルドナドに離されてしまうのである。しかしアロンソはあきらめずに追いかけ続けた。マルドナドの前にははやくも周回遅れの車が姿を見せはじめていて、マルドナドがこれを捌いていくにはタイムロスは不可避であったのである。あとになって考えてみると、このときがアロンソにとって前に出るただ一度のチャンスであった。

ところが、そのアロンソのペースが残り七周となった五十九周目から目に見えて落ちはじめ、六十一周目にはマルドナドとの差は二秒ちかくにまで開いてしまった。どうしてもっと追いかけないんだろうとみんな不思議に思ったが、アロンソにはアロンソの事情があった。マルドナドに追いつこうとして無理なハイペースでの走行を続けたために、リアタイヤが駄目になってしまったのである。その上うしろからは、虎の子のニュータイヤを最後の最後になって投入し、これまた烈しいペースで追うライコネンが、一周につき1.5秒というおそろしいペースで迫っていた。それでもアロンソはあきらめずに追い続けたが、六十三周目になってあきらめた。前の車との差はいまや3秒以上になっていた。スペインの観客が地元の英雄の凱旋を目にする機会はこの瞬間に失われたのである。

マルドナドは最後の数周をまったく危なげない走りでクリアすると、六十六周目のコントロール・ラインにまっさきに姿をあらわした。彼は右手を高々と掲げ、ベネズエラ人としてはじめて、F1グランプリで優勝したドライバーとなった。チームにとってもこの勝利は特別であった。二〇〇四年ブラジル・グランプリでフアン・パブロ・モントーヤがあげた一勝以来、じつに八年ぶりの勝ち星だったのである。くしくも、八年前のその勝利もフェラーリをうち破って得たものであった。二位にはアロンソが、三位にはライコネンが入った。ライコネンのレース・ペースもすばらしく、レースがもう一周あれば確実にアロンソをしとめて二位になれていたところだった。マルドナドは表彰台上ではじめて流れるベネズエラ国歌をきき、その後壇上でふたりに担ぎ上げられてはしゃぎまわっていた。最後尾からスタートしたハミルトンは、途中四位まで追い上げる局面もあったが、結局八位でレースを終えた。思えばマルドナドは、当初から持参金だけで契約したペイ・ドライバーとそしりを受け、その不安定なドライビング・スタイルとチームの不調のせいで優勝候補の隅にものぼらない名前だったのである。それでも彼はF1のすぐ下のカテゴリであるGP2のチャンピオンで、こんどの優勝はウィリアムズ・チームの完全復活を意味するばかりでなく、彼自身に対するそうした正しくない評価を洗い落とすに足るものだった。デビュー二年目になって、パドックにマルドナドの実力に対して疑問をさしはさむ人間はいなくなったのである。

2012年3月28日 (水)

2012年F1 オーストラリア~マレーシアGP成績表

さて、ここまで2012年のF1選手権も2戦を消化したわけだが、予想通りなリザルトのところと予想を裏切るリザルトのところがはっきり分かれてきた。開幕戦というのはいろいろと運要素が絡んできてあまり実力が見えなかったりするので、あえて2戦経過時点でのパフォーマンスを基にして、各チームに10点満点で採点を行った。基準は筆者の独断であることを先にお断りしておく。それでは早速見ていこう。



レッドブル・ルノー: 7.5/10。予想よりやや苦戦している感じ。少なくとも昨年のように、レース開始から終了まで全部リード、というような破天荒な勝ち方はできていない。ウェバーは持ち前の安定性がようやくいい形で出てきた、といえるだろう。ベッテルは開幕戦2位で多少株を上げはしたが、その後マレーシアで周回遅れに接触する大チョンボをやらかして無得点に終わっている。それでも速いことには変わりなく、このままいけば今シーズン中に何勝かは挙げられるはず。

マクラーレン・メルセデス: 9/10。本来なら10点満点でもいいくらいなのだが、マレーシアでやや精彩を欠いたせいで多少ミソがついた。ハミルトンのピットの遅れはまあ、仕方ない(後方から殺到するマシンを先に行かせる必要があった)にしても、バトンの接触事故は完全にドライビングミスである(周回遅れと誤認して突っ込んだか?)。それでもオーストラリアであんな風に勝ったおかげで、全体的には評価は高い。ハミルトンはもうちょっと精進したほうがいいかもしれない。

フェラーリ: 7/10。開幕前の下馬評を聞けば、十人が十人みな首を横に振ったチームである。それがオーストラリアで予選を落としながら5位、マレーシアでは天気の混乱に乗じ、ライバルの猛追を振り切って勝ってしまったのだから、こちらももっと得点は高くてもいいはず・・・なのだが、この辺りはチーム力というよりアロンソ個人の腕前に頼る面も多いだろう。その上、二台目のクルマがあれだけ遅くては・・・である。マッサはオーストラリアで凡ミス自滅、新シャーシで挑んだマレーシアでも見所なし、となれば、来年彼がフェラーリに留まるのは奇跡に近い。いや、われらが早苗さんをもってしても無理であろう(筆注:「早苗さん」というのは、プライベートレーベルのPCゲーム「東方Project」シリーズに出てくるキャラクター、「東風谷早苗」のこと。奇跡を起こすという、ある意味チートな能力を持っている)。

メルセデス: 6.5/10。予選では目を見張る速さ。しかしレースになるとタイタニックか戦艦大和の勢いで沈んでいく。ロス・ブラウンによればタイヤの加熱に問題がありそうだが、全体的に昨年からの問題点である決勝ペースの不安定さがまだ解決されていないように見える。ドライバーには問題が見当たらないだけに、もうちょっとクルマを改善していかないと上には行けないだろう。

ロータス・ルノー: 8/10。速さ十分、その上美しいとなれば、ここ2戦での総合的ベストチームと言ってもいい。少なくとも総合評価ではマクラーレンと比肩しうるチーム。ライコネンは当初こそ不安視されたが、テストでその疑念を一蹴。レースでも、オーストラリアでQ1落ちからポイントゲット、マレーシアでは終盤、FLを連発しながら5位と快調だ。グロージャンも予選・スタートはいいのだが、いまひとつ運が悪いせいか、いまだポイントゲットには至っていない(そのうちポイントを挙げるのは確実だろうが)。シーズン通してこの調子を維持できれば、メルセデスやフェラーリとも互角に渡り合う可能性が出てくるだろう。

フォースインディア・メルセデス: 6/10。去年の好戦績のわりに、今年はまだあまり目立っていないのでやや辛口な評価。去年チームがスーティルを放出した決断が必ずしも正しいものではなかったことを反映している(まあ、暴行騒ぎもあったし止むを得ない側面はあっただろう)。ドライバーのせいなのかマシンのせいなのか、まあもう少し様子を見てから、と言いたいところながら、この意見を連発されるチームというのは得てして「存在感のないチーム」であったり、そうなりやすい。ということはこのチームも・・・

サウバー・フェラーリ: 8/10。マレーシアGPでペレスが2位に入り、フェラーリエンジン1-2を決めるという大金星で躍進。ウェット路面にセッティングがバッチリあたり、さらに優れたタイヤ性能で最終盤までフェラーリを追い立てた。結局最後の最後でミスを犯してしまったが、あのままいっていれば、チームにとって08年カナダ以来の優勝もできたかもしれない。小林は対照的に地味。チームの戦略ミスなどもあって、いまだ本領を発揮というわけにはいかないようだ。あそこで勝っていれば文句なしの10点だっただろう。シーズン終盤にかけてどんどん戦績が下がっていくのが様式美のようなチームだから(それこそ十年前から言われ続けているぞ)、序盤で取れるだけ取ってしまうのも作戦としてはありかもしれない。

STR・フェラーリ: 7/10。去年の時点では、ダニエル・リカルドという人物がいったいどこまで速くF1カーを運転できるのか、誰も正確には知らなかった。現代F1で予選落ちなど喫するようなチームにいたのだから、当然といえば当然だろうが、開幕戦でポイントゲット、オーバーテイクショーとは行かぬまでもポジションを上げた、という点では十分なスコアカードだろう。僚友ベルニュはまだちょっと未知数といったところだが、豪雨のセパンをただ一台、赤旗中断までインタータイヤで泳ぎきったあたり、見るべきものはあるかもしれない。今後に期待だ。

ウィリアムズ・ルノー: 7/10。こちらも、開幕前予想を覆し力走しているチーム。名門ゆえの頑迷さで昨シーズンを棒に振ったかと思えば、名門ゆえの求心力(?)でうまいこと立て直してきた。刷新された技術陣に新しいエンジンで、マルドナドが光る走りを見せているが、どうもいまひとつ完走に繋げられていない。セナは当初こそ凡才扱いだったが、セパンで6位入賞を果たし株を上げた。上位入賞も十分可能と思われる。

ケーターハム・ルノー: 5/10。こちらは逆な意味で前予想の逆を行くチーム。特に2010年、2011年と好成績を挙げ、今年さらなる飛躍が期待されたが、今のところ開幕戦のダブルリタイヤ、マレーシアではノーポイントレースと低迷(現状維持?)している。ドライバーは可もなく不可もなく、特に目立った活躍はまだ見られない。もうちょっと頑張ってほしいところだが、開幕前にライバルと目されたウィリアムズがかなり速くなってきていると思われる現在、上へ上へと上がっていくのは並大抵のことではないかもしれない。

HRT・コスワース: 0.5/10。まさか1点以下を付けざるを得ないチームが出てくるとは予想・・・できていなかったわけではないが、それにしても「惨状」としか形容できないチーム。そもそもこのチームのためのスターティング・グリッドが存在すること自体が大奇跡みたいなもんである。開幕戦で予選落ちを食らって2台欠場、第2戦ではほとんどトップチームのレースをぶち壊すために出てきたような有様。なまじチームの人間は真剣そのもの(だと思う・・・)なだけにいたたまれない。カーティケヤンなぞ、まずバトンと接触してこれを撃沈し、次にはベッテルを撃沈して彼の全身の血管を逆流させる大戦果を上げている。ベテラン、デラロサにも手に余る状況では、今シーズンもたいした進歩は出来ずじまいだろう。

マルッシャ・コスワース: 4/10。相変わらずTVカメラの追跡を全力で振り切るほど遅いが、それでもまだ4回のスタートで4度とも完走しているあたり、少しだけマシにはなっているのかもしれない。パット・シモンズ効果なのかどうか、信頼性の向上というとりあえずの至上命題は目鼻がついたようにも見えるが果たしてどうか・・・。

2012年3月10日 (土)

2012年F1 開幕直前スペシャル

さて、遅ればせながら、2012年F1シーズンも開幕前の2回の公式テスト・セッションを終え、12年を戦う各チームの新車が出揃った(若干名、遅刻組が存在するが)。今季を戦う12チーム、24台のマシンに共通するものは、まずなんといってもカモノハシのごとく張り出した、世にも醜い段差付ノーズコーン。側面衝突の際、高いノーズコーンがドライバーを突き抜けてしまわないよう先端部分(前輪から前)の高さを規制したが、本来が2009年ブラウンGPのようななめらかなローノーズにすればいいものを、鼻下に空気を多く入れたい(ハイノーズコンセプトや、それに伴うノーズ下空気流の活用は、もとはと言えば2009年にレッドブルが編み出したもの)エンジニアたちは、前輪より後ろ(ドライバー寄り)の高さが規制されていないことをいいことに、前輪の軸線上に階段をつけて解決してしまったのだ。これ以外では、エキゾーストブローシステムの全面禁止による排気系統の見直しが上げられる。昨年に続き、今年も排気部分の開発が焦点のひとつになりそうだ。さて、以下に12チームの概要と評価を書いていきたく思うが、この評価はあくまで個人的なものであることに留意されたい。   
   
レッドブルレーシング・ルノー RB8/#1 Sベッテル(D)、#2 Mウェバー(AUS)    
昨年、すさまじい強さでシーズンを席巻したレッドブル・レーシング。運営体制、ドライバー、エンジン、開発陣など、メジャーな部分にまったく変更がない状態で新シーズンに臨む。安定性という意味では一安心できる体制だ。ノーズ以外、新マシンは昨年のRB7のコンセプトを順当に引き継いでいるふうに見える。2回目のバルセロナ・テストには、さらに攻めた設計のいわば「改良版RB8」が持ち込まれていたが、開幕戦では信頼性などの問題から初期型を使用する見通しだという。同チーム所属の名デザイナー、アドリアン・ニューエイの今年の「隠しネタ」はノーズ段差部分の「郵便受け」。ドライバーの冷却用と公式には発表されているが、誰もそんな話を信じちゃいない。かといって本当の目的が何なのかはまだ闇の中なのだが・・・。テストのタイムは驚異的というまでには至っていないものの、安定して上位に入っており、今年も連覇に向けて視界は良好といえそうだ。   
   
マクラーレン・メルセデス MP4-27/#3 Jバトン(UK)、#4 Lハミルトン(UK)    
ポスト・レッドブルの一番手マクラーレン・メルセデスは、今季トップチームで唯一、段差ノーズを採用していない。チーム側によると「昨年からの空力コンセプトを引き継いだ」云々という。おそらく、今年からF1を見始める人の8割、いや9割はマクラーレン・ファンの行列に加わるのではなかろうか。昨年の特徴的なL字ポンツーンは姿を消し、やや腰高な普通のサイドポッドに取って代わられている。こちらも特にテスト段階で大きな問題は見受けられず、すべて至極順調に進んでいるものと見てよさそうだ。今季も、レッドブルを追いかけ追い落とす存在となるだろう。主にバトンが、対レッドブル戦線の尖兵を務めることになりそうだ。気持ちのいい戦いを期待せずにはいられない。   
   
スクーデリア・フェラーリ F2012/#5 Fアロンソ(ESP)、#6 Fマッサ(BR)   
昨年早くから「2012年マシンはかっこ悪い」とネット上で話題を振りまいたチーム。残念ながら、段差をつけた仲間同士の中にあっても、このクルマはひときわカッコ悪く見える。海外では「まるでレゴブロック」と酷評されていた直線的に過ぎるノーズのせいで、全体がダルな印象をまとう。レッドブルに倣い後サスをプルロッドにしたまではよかったが、なんとその勢いで(?)前輪までプルロッド化されてしまった。80年代のローノーズマシンならともかく、近代のF1マシンでこんなアプローチをするメリットがちょっと見当たらない。ドライバーの(貴重な -フェラーリが、テストが進むにつれてドライバーに「緘口令」を敷いてしまったせいだ-)コメントによれば、空力バランスにも問題がありそうである。ドライバーも、アロンソはともかく、マッサがすっかり勢いを失ってしまっているのが気がかりなところ。何より、テストセッション終了後のドライバーが「まだ仕事がたくさんある」なんてことを言っている時点で、今季のリザルトは推して知るべし、であろう。このチームの迷走飛行は、残念ながらもうしばらく続きそうだ。   
   
メルセデスGP W03/#7 Mシューマッハ(D)、#8 Nロスベルグ(D)    
こちらもコンサバ路線まっしぐらなチーム。エディ・ジョーダンもびっくりの「デザイナー青田買い」を敢行、いろいろと有力どころから有名デザイナーをぞろぞろ引き連れて来てデザインしたのがこれかよ、と言いたくならないでもないが、大きく設計思想を変更することによるリスクを考えると、なかなかそうもいかないのだろう。ドライバーラインアップも昨年から継続。救いがあるとすれば、今季大きくリザルトを落とすであろうフェラーリがすぐ前にいるということくらいか。他人の危機に乗じてでも、這い上がってチャンスをモノに出来れば、それ即ちF1においては大勝利、だ。今季は主にフェラーリを追いかけることになるだろうが、果たして追い落とすまでに至るかどうか。   
   
ロータス・ルノー E20/#9 Kライコネン(FIN)、#10 Rグロージャン(F)    
復帰したライコネンと、09年に同チームでレース歴のあるグロージャン。いずれも昨年走ってはいない、いわば「偽ルーキー」コンビだ。マシン名は「エンストン(Enstone)で作られた20台目のシャシー」だそうだが、伝統的にロータスは市販車・レースカー共通の通しナンバーを使用しており(マツダもそう。767とか787とかのアレ)、不可解なネーミングだ。一説には、チーム・ロータスの名称を一年間飽きずに係争していた現ケーターハムのナンバーを引き継ぐのを嫌ったとされている(というか、9分9厘そうであろう)が、真相は語られていない。マシンは段差部分の曲面処理をかなり上手くこなしており、ルックス的には高評価だ。他には、「黒・金」の金色部分が、TV映りを考えてか、よりクリーム色に近い色合いになっている。テスト段階ではライコネンのみならず、09年にバドエルと並んで最遅の評価を得たグロージャンですら好タイムを出しており、あくまでテストとはいえシーズンに向けての期待をあおっている。しかし、テストの最中にフロントサスペンションのマウント部分に剛性不足からくる(と思われる)トラブルが出ており、こちらはあまり安心できるものではない。過度な期待は禁物だろうが、それを差し引いても結構、善戦しそうなチームだ。   
   
フォースインディア・メルセデス VJM05/#11 Pレスタ(UK)、#12 Nヒュルケンバーグ(D)    
スーティルが昨年の喧嘩騒ぎで有罪判決を受けてしまい、テスターだったヒュルケンバーグが正ドライバーに昇格。昨年後半の追い上げ以降、かなり調子の波に乗れてきているが、実力者のスーティルが抜けた後の穴埋めが果たして若い二人に務まるかがやや気がかり。ヒュルケンバーグは2010年に、あのウィリアムズ・コスワースでPPを獲得した実績があるが、まだ実力を測るには早計という声もある。マシンカラーリングはオレンジの面積が増え、なかなか美しいものになった。昨年の勢いもあり、今年も中段グループのリーダーとして活躍するであろう。   
   
サウバー・フェラーリ C31 /#14 小林(J)、#15 Sペレス(MEX)    
こちらも堅実に昨年のコンセプトを引き継いだマシンを用意してきた。カラーリングは黒の面積が増え、またホイールが黒くなったこともあり、より引き締まった印象を受ける。ノーズの段差の処理は非常に直線的なのが目に付くが、他はこれといって特筆しべきものでもなさそう。小林はもう少し安定して上位に入れる走りをすれば、序盤での荒稼ぎの可能性が見えてくる。チーム的には、通弊である「シーズンが進むにしたがって成績が落ちてくる」悪癖を直せるか、だろうか。相変わらずチームの懐事情が厳しいとあっては、ちょっと難しいかもしれないが・・・。最大の問題は、技術面を司るジェームズ・キーTDが開幕前に離脱してしまったこと。チーム躍進の立役者である有能なチーフを欠いた設計陣が、果たしてこのマシンの開発を引っ張っていけるのか、不安が残るシーズンを迎えることになりそうだ。   
   
スクーデリア・トロ・ロッソ・フェラーリ STR7/#16 Dリカルド(AUS)、#17 J-Eベルニュ(F)    
フォースインディア同様、昨年後半とみに力をつけてきたチーム。序盤のノーポイントレースがたたり、サウバーにあと半歩及ばぬところでシーズンを終えてしまったが、あと5、6ラウンド、いや3ラウンドでもあれば、順当に逆転できていたかもしれない。今年の活躍ぶりも大いに期待できる・・・などと言っていた矢先に、なんとチームは有能なドライバー2人をいっせいに解雇し、レッドブルのジュニア育成プログラムから新たに2人の若武者を引っ張ってくるという「暴挙」に出た。この選択が最終的に正しいものかどうかを論ずるには、少なくとも開幕2~3戦が過ぎるまで待ったほうがいいとは思うが、他チームがつけ込むべき不安要素があるとすればこれだろう。マシンは「脱・レッドブル」色をいっそう強めており、ドライバーの活躍しだいではいい位置に付けてきそうなチームだ。昨年、フォースインディア・サウバーとの戦いの続きを見られるとすれば、喜ばしいことではないか。   
   
ウィリアムズ・ルノー FW34/#18 Pマルドナド(VZ)、#19 Bセナ(BR)    
「斜陽の名門」とはべたな表現だろうが、このチームはもはや「斜陽」を通り越して、ほとんど夜になりかかった状態である。フランク・ウィリアムズとパトリック・ヘッド、言葉は少々きついが二人の老人による旧態的な運営、もっといえば名門チームの矜持に固執しすぎたツケともいえる。一時期の栄華をともにしたルノーエンジンの獲得によって、風向きは多少なりとも変わることが期待されている。が、テストのタイムを見る限り、期待はあまり叶いそうにない。昨年のマクラーレンのような例もあるにはあるが、このチームにそこまでの体力はなさそうである。バリチェロを切り捨てブルーノ・セナを起用したのも金のためでしかないだろう。マシンもFW33のノーズコーンにただ階段をつけただけのような代物で(昨年問題になったリアサスマウント周辺もほったらかしに見える・・・)、お世辞にも速そうとはいえない。2011年と同じくらい苦しいシーズンが待ち受けることは、まさに火を見るがごとしであろう。或いは彼らが見ているのは、自分の台所の火の車なのか・・・。かつて旧ロータス、ブラバム、はたまたティレルといった同郷の名門がたどった足跡を、ウィリアムズは確実になぞっているように見えてならない。   
   
ケーターハム・ルノー CT01/#20 Hコバライネン(FIN)、#21 Vペトロフ(RU)    
一年目の半ばあたりですでに「員数合わせ」から脱却し、昨年、中段グループへの足がかりをつかんだ、上昇気流に乗る新進チーム。マレーシア政府による手厚い援助・庇護もあり、先行きは安泰に見えるが、すでに一回目のテストで走行しているトゥルーリを土壇場で降ろし、豊富なロシアン・ルーブルの束をバックに持つペトロフを起用したあたり、財政的な苦悩が見え隠れする。マシンは各チームの中で最も早く、1月26日にウェブ上で発表され、世間に段差ノーズの何たるやを(悪い意味で)印象付けた。しかし全車出揃った中で改めて眺めると、最低限、段差を滑らかに処理しようという努力はうかがえる。チーム名が変わっても、深緑・黄の好感が持てるカラーリングは続投のようだ。今年の目標は非常に明確。ウィリアムズを切り崩し、ポイントを獲得することだ。今現在のチーム状況、士気からして、難しい目標ではないだろう。   
   
HRT・コスワース F112/#22 Pロサ(ESP)、#23 Nカーティケヤン(IND)    
チーム首脳に往年のF1パイロット、ルイス・ペレス・サラを起用、ドライバーもリウッツィに変えてデラロサを抜擢と、スペイン色を増しているチーム。しかし裏を返せば、止まらない人材流出に対する苦しい穴埋めの一端でもある。マシンはテストセッションに間に合わず、セッション終了後の月曜日、撮影日を利用しての限定的なシェイクダウンにとどまった。マシンは段差なしノーズながら、それなりにうまくまとまったデザインで、なんとなくターボエンジン発禁直後の、新規参加チームが限られた予算で用意したモノコックを連想させる。カラーリングは初期フォースインディアを連想させる、白地に赤・金のアクセント。こちらも見た目は好ましく映る。カーティケヤンの持ち込んだインディアンマネーをカラーに反映した、ということか。しかしいくら見目がよかろうが、それだけで速く走れるはずはない。スカスカのチーム状態では、今年もマルシャと最下位争いに終始するのが関の山といったところだろう。   
   
マルッシャ・コスワース MR-01/#24 Tグロック(D)、#25 Cピック(F)    
まったく走らなかったジェロウム・ダンブロシオの代わりに、新人チャールズ・ピックを起用。こちらもクラッシュテストに手間取ったせいで、オフテスト期間中に新車が間に合わなかった。ヴァージン成分がさらに減ってチームの経営権がロシアに渡り、通しナンバーも01から振りなおされる。こちらも目立った段差はついていないが、ノーズ部分に控えめな突起が設けられている。デザインは堅実なほうだが、パット・シモンズが設計を受け持っている。カラーリングは白部分がなくなり、赤・黒のツートーンとなった。マシン、ドライバーとも特に目新しいものはなく、リザルトも昨年と同程度のものにとどまることになるはずだ。HRTよりは速く走りたいところだが果たしてどうか。   
   
さて、2012年のF1シーズンは来週金曜日、3月16日のフリー走行セッションをもってスタートする。当面の注目は、「レッドブルは独走を続けるのか」、「誰がレッドブルを止められるポジションにつくのか」といったところだろう。上位数チームよりも、そのすぐ下、中段数チームの間で特に激闘が予想される。去年が去年だっただけに、今年こそは群雄割拠、面白いシーズンになることを期待したい。   

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